高校一年生の夏休み、いつまで経っても慣れないであろう期末試験から、二週間ばかり過ぎた頃だろう。友人とゲーセンに行った帰り道に、一匹の猫を見つけた。

綺麗な三毛猫だ。もしこんなのが家に居たら、きっとずっと僕の抱き枕になるだろう。

こんなとりとめの無い事を考えていた当時の自分を、精一杯言葉の暴力でぶん殴って改心させてやりたい。過去を変えられるのは、青いタヌキっぽいアレくらいだろうが。

その猫は僕に話し掛けてきた。

「すまないが、少々道をお尋ねしたい。綾人と言う人間の住処は知っておるか。」
「綾人は僕だ。僕の家に何の………。」

あちらの世界で三毛猫とじゃれあっていた僕は、いいかげんな返答の途中で我に返った。

なにこいつ、人語喋ってる。いや、僕の空耳だろ猫が喋るはずないしまず猫が話す事がないし何だこれは………。

あまりにも驚きすぎて、頭の中をぐるぐる回っている考えさえも、ノーブレスで展開されたり同じ事を反復したりしていた。

「何だ、お前が綾人か。丁度良い、どうせ帰り道なんだろう。私はお前に着いてゆくとしよう。」

どうやらこの猫、一人(猫なんだが)で早々に解決してしまったらしい。
勝手に僕の自転車のカゴに入り、こちらを一瞥して一言。

「早くせんか。もうすぐ夕飯であろう。」

何か大事なものを失ってしまった僕を、ただただ急かすだけだった。