気が付くと、俺は落下していた。
 仰向けの状態で落下していた。


 体全体に、今まで経験した事の無い、極度の重力を受けていた。
 背中に猛烈な風圧を受け、体は“くの字”に曲がり、四肢は宙に向かって下から強引に押し上げられた。
 まるでソファーの背もたれと座席の隙間に、際限無く押し込まれていくような感覚だ。
 着衣は千切れんばかりに旗めき、轟音を響かせている。
 俺はいつの間にか絶叫していた。
 何を叫んでいるのか、自分でも分からない。
 ただ口を大きく開き、息の続く限り叫んでいた。
 叫ぶことで腹筋に力が入り、全身が硬直していく。そうすることで、バラバラになりそうな体が、辛うじて繋がっていられるような気がした。

 理解を超えた現状に、再び意識が遠のき始めた。
 こめかみの辺りが、徐々に痺れ始めてくる。
 狭まり歪んでゆく視界に入ってくるのは、凄まじい速度で通り過ぎていくピンクと紫の斑状の壁のみだ。
 全身から力が抜け、突然、体が反転した。
 一瞬だけ眼下に見えたのは、どこまでも続く空間だった。
 どこまでも続くピンクと紫の斑状の壁。
 俺は再び意識を失った…。