狭い通りを抜け、ちょっとした広場に差し掛かると、そこには人だかりが出来ていた。
「何事?」
「アイツか…」
やっとアルトの隣に来ることができた私は、見上げてその表情を伺ってみると、ものの見事に心底鬱陶しいという顔つきをしていた。
「きゃー!ザッカリー様!」
耳を劈くような女の黄色い声が後ろから聞こえたかと思えば、若い女の集団がこちらに向かって走ってきた。どうやら私たちのことなど目に入っていないようだ。
「わー、ずるいザッカリー様。私にもやって〜」
女たちがキャーキャー言う視線の先には何があるというのか。有名人でもいるのだろうか。
「何事など。」
「ザッカリー・シーランドだ。」
「誰?」
「ケイレブそっくりなケイレブの弟だ。」
ふわりと何か香って、なるほど、その瞬間納得してしまった。ケイレブと同じ薔薇の香水の匂いがした。