ブランはまた苦笑いを浮かべて、頭のシルクハットをとった。黒くて柔らかそうな猫っ毛がふわりと現れた。

「レイリーと交わした契約書では、君にこの部屋の賃貸費として、亜人等の家賃回収の手伝いとあった…」

ブランが思い出すように話し始めた。

「どういう種の亜人を相手にするかにもよるけど、君に戦闘に巻き込まれる可能性がある仕事だけは避けたかった。」
「ブラン…」
「…でも、何もないようだから、今のところはその仕事でいいかなと思う。」

自分で納得したようにブランが話す。そんなに私のこと考えてくれてたんだ。何だか嬉しい。

穏やかな幸せがじわりと胸にこみ上げてきたところで、アルトがうんざりしたように姿勢を崩した。


「で、これからどうすんだよ?」
「んー、とりあえずルカには住むところができたし、オレは家に帰る。アルトも帰ったらいいよ。ここにいる限りはルカも大丈夫だろう。」
「…わかった。」


少し間があったアルトだが、それ以上に何も言わずにさっさと部屋を出て行った。何か、納得しないような様子だったのは気のせいか。