それから男は黙りこみ、ドアの辺りを凝視していた。私も何事だ、と視線と向ける。
何も起こらない。
が、静寂の中、床がわずかに揺れるのを感じた。
「地震?」
「しっ」
男が唇に指を当てて合図する。何が何だかわからないまま、よからぬ予感だけがして、男の指示に従い黙ると、揺れは激しくなり、ドドドドっと地響きがしたかと思うと、いきなり耳を劈くような爆音と共に、ドアとドアの壁が豪快に壊されて何かが部屋に侵入してきた。
次から次へと起こる超展開に、あたふたする暇もなく、ただ目を丸して床を見つめると、その侵入者の巨大な影と足が視界に入る。
何者かわからないが、何か目を合わせてはいけない気がしてただただ俯いたままでいたが、こう状況からわかるのは二つの不気味な事実だけだ。
この侵入者、でかい。ゾウなど非にならないほどに。クジラより大きいであろうその巨体は私の上に聳え立って、床に大きな影を落としている。
そしてもう一つ。この侵入者…明らかに未確認生命体だ。その足は鳥のそれによく似ているが、こんな巨大な生き物は鳥はおろか、存在するはずがない。
謎の生き物は私の頭上で、フーフーと低い音を出して呼吸している。死の危機をこんなに身近で感じたことはない。額には汗がじわりにじみ始めていた。
いつ殺されるかと目を瞑っていたが、一瞬、ヒュッと宙を掻き切る音がして、続いて大音量がそれを追った。怪物が一本背負いで投げられたかのような音で、部屋のサイドで家具と壁が崩れ落ちる轟音が響いた。
恐る恐る音の方をみやると、壁を破壊して謎の黒い巨体がそこには横たわっていた。