「そこまでよ。」
中性的な鋭い声が響いたと思って、反射的に振り返る。
声の主の姿を見て、レイリー顰められた眉は唐突に困惑を表す弧を描く。
「お前…」
「弱いものイジメは良くなくてよ。あたしが月に変わってお仕置きだわ。」
クスクスと笑ってその人物は、近づいてくる。全体像がはっきりわかって驚いたのは、その人が”男性”であったこと。
スラッと長い手足を優雅に滑らし、後ろに一つにまとめた長い薄紫の髪は、シルクのようにさらさらと左右に男の歩みに合わせて揺れている。ケイレブが着用していたスーツのような軍服のような、ともかく何か偉そうな雰囲気を醸し出しているそれは、色味までケイレブのものと似ている。多少オネエ系のアレンジが加わっていたようだが、どこかへの所属を表す制服と見て間違いがないようだ。
一瞬、女性かと思えるような美貌の持ち主だったが、軽く開いた胸元の喉仏を見て、性別は男だと確信した。
彼の登場に、面倒くさそうに体をペンギンから引いたレイリーは、掴んだいた胸ぐらを一旦離した。
「弱いものイジメじゃない。僕は職業上の権利を行使しているだけだ。」
「あら、恐喝は犯罪と呼ぶのよ。」
「恐喝じゃない。家賃滞納に対する正当な”警告”だ。」
「どうかしら?」
ちらりとレイリーの背中にあったリュックサックに目をやったと思えば、瞬きも間に合わない速さで何か動いたかと思うと、カチャと金属音がしてリュックの中身がどどどと流れ出てきた。