「起きろ、アルト。」
ブランがそう言って、銀髪の男を立たせようとする。いや、待って。今、何て。
私の耳がおかしかったのか?私はまじまじと男の顔を見る。
それはどう見ても人間のそれ。口の悪さに似合わず、整った顔に銀髪は少し変わっていたが、瞳の色は真っ青な青、アルトのそれと同じだった。
「アルト…なの?」
私がおずおずと口を開くと、アルトは不機嫌そうに、「あァ?」とこちらを見遣った。
「アルト、ルカはお前のこの姿は初めて見るんじゃないの?」
アルトはその言葉でピンときたのか、納得したように目が見開かれた。だが不機嫌は変わらない。
「だったらどーした。」
「どーしたって... アルトさっきまで犬だったじゃない。」
何か地雷を踏んでしまったのだろうか、アルトの顔がみるみる夜叉の形相に変わる。
「だァれが犬だあ!?」
「ルカ、アルトは偉大なる狼の化身だ。犬じゃない。」
ブランが冷静に捕捉を入れると、私はようやくアルトの怒りの意味を理解した。どうやら狼に犬というのはタブーらしい。ドラ○もんにタヌキというとまずいのと同じ理屈だろうか。
「疲労などで魔力が下がると、睡眠時などの油断している時に省エネモード、つまり、人間のフォームに自動的に切り替わるんだ。」
なるほど、とブランの説明に頷くが、アルトは知らんぷりだ。
その様子に、ブランは困ったような表情を浮かべるが、そこにいつもの苦笑いはない。何か気がかりなことでもあるかのようだ。