内心ビクビクな私をよそに、アルトは堂々としている。
「それでは。私たちはこれで失礼するとする。」
アルトは軽く会釈をすると、私に合図して廊下の端に向かって歩き出した。廊下を抜ける間、終始背後から注がれるものものしい視線に、痛みすら感じながら、私たちはゆっくり焦ることなく、だがしかし足早にその場を去った。
ようやく沸き立つ殺気を振り切れた距離になって、私は口を開いた。
「ハァハァハァ…心臓止まるかと思った。」
やっとまともに呼吸できるようになって、私は酸素を一気に肺に入れようとした。
一方のアルトは冷静さを一切崩さす、落ち着いた声で答えた。
「ケイレブは、礼儀さえ気をつければ大丈夫だ。... 今のところはな。」
最後の一言に一抹の不安が残るが、私の心はアルトの言葉で随分と救われた。