私はしばらくの間、アルトの目を見つめたままそこから動けずにいた。アルトも黙って私の目を見つめ返すから余計にだ。

その時、私たちが突っ立って話していた細い廊下に、向こうから誰かが来る気配が漂ってきた。別に怪しいことをしているわけでもないのに、何故か緊張が走る。

廊下の端の人物が遠目に誰かわかった瞬間、アルトが鋭い声色で言った。

「ケイレブだ。気をつけろ。」


やがて、私の視力でもその人物をとらえられる近さになると、アルトが姿勢を正してふわりと軽く尻尾を振った。私も見習って背筋を伸ばす。

現れた人物は背がとても高くスラッとしており、予想よりもずっと若かった。サラサラの金髪を後ろに纏めて束ねており、私でもわかるような、見るからに偉そうな人が羽織るような床にスレスレの長いマントを着用していた。派手な装飾が施された制服からは薔薇のような匂いがする。

長い睫毛の奥に隠れたアクアマリンの瞳が私を捉えると、興味深そうに見回してやがてアルトに視線が移った。

「グレートウルフの化身。久しぶりだな。」

声は意外に男らしく、低く威厳のあるものだった。

「そうだな。」
「グレートウルフの化身がこんなところで何をしている。」

抑揚のないトーンで応えたアルトに、ケイレブはあからさまに疑いの眼を向けている。アルトはそれに素直に答えた。

「また異世界から迷い人が侵入した。昨晩のことだ。それで、住居を探していてここにすることにした。」
「また異世界からか。」

露骨な舌打ちに、私は思わずビクッとしてしまった。