事務手続きも完全に済んだ今、レイリーの「なるべく早く準備するけど、今日に引っ越すのは無理だから、明日また来て。」という言葉を最後にその部屋を後にした。
「敷金も礼金もいらないのね。」
「何だそりゃ。」
私が感心して言うと、アルトは意味がわからんといった様子で答えた。そうかここは異世界だった。私の元いた世界と違う。
なのにどうしてだろう。まだ来て1日と半日しか経っていないのに、色々な人と会ってひどくここの生活に慣れてしまった気がする。これは良いことなのか悪いことなのか。
特にブランは、この世界で一番初めに会った人だし、過ごした時間も長かったから、何だろうこの気持ち。寂しい... のかな。
基本、優男でちょっとヘタレ気味だけど優しいし、イケメンだし.... いや、でも部屋の契約の時に見せたあの表情...
それにレイリーが言っていた、「前の異世界人が焼け焦げる」とか何とか...
何か隠しているような .... あの ...
私が考えを巡らせている様子を、じっと見ていたアルトの視線に気づいて、私は取り繕う。何か不審に見えたのかもしれない。
「な、何?」
変わらないアルトの視線の鋭さに、私は居心地の悪さを感じてもぞもぞと言った。アルトは私の心中でも察したのだろうか。変なところで鋭くて緊張してしまう。
「...さっき、ケイレブの奴はお偉いさんだと言ったが、」
アルトがゆっくり口を開く。