「サインするとこにはもうサインしてもらったから、あとはお姉さんがこの書類に目を通すだけ。」
レイリーが私に書類を渡そうとするなり、犬の足でアルトが器用に横からそれをとった。
「な、なにすんのさ。」
「てめーがまたいい加減なこと書いてねーかチェックすんだよ。」
「...してないってば...」
小さく拗ねたように言うレイリーを見て、私は思わず非難がましくアルトの方に視線を向ける。
「甘すぎんだよ、嬢ちゃん。この性根腐ったクソガキは油断した時が危ねーんだ。」
低い声でそうアルトは唸ると、書類に目を通した。レイリーは隣で不服そうにむくれている。
「一応、ブランにも頼まれってっからな。」
「え?」
「おめーが危険な目に遭わないようにってな。」
さらさらと書類を読み進めるアルトをよそに、私はじわじわとしたから熱が上がってくるのを感じた。ブランが…?そりゃまぁ、彼が私の保護者なわけだし、当然と言えば当然なのだけど...。
なんだろう、嬉しいのかな、この気持ち。
ざわざわと歓喜の気持ちが湧き上がったと思ったら、アルトが書類を読み終えたらしく、ニヤニヤしながらレイリーに返した。レイリーが不機嫌全開でそれを受け取った。
「今回は詐欺してないのな。」
「あたりまえだろ。それに今の行動と発言は、業務妨害と名誉毀損だ。」
「あーはいはい。煮るなり焼くなり訴えるなり自由にどうぞ。」
レイリーの脅しを相手にする気などなさそうに、アルトは軽く手でレイリーをあしらった。レイリーは当然ムッとしているが、アルトはどこ吹く風であくびをすると、そのまま顎を床につけて寝てしまった。
一体この二人は何をやっているのか。仲がいいのか悪いのか。わからないことだらけのうちに、時計の針はもう夕方の時刻を指していた。