「おはよう。目が覚めた?」
見知らぬ男の声が背後から聞こえた。反射的に振り向くと、そこにはやはり見知らぬ男が、優雅に脚を組んで紅茶らしきものを飲んでいた。
自動的に私の目が男の上から下へと動く。成る程、随分と変な格好だ。コスプレかよっていうのが素直な感想。
男の印象はまさに、黒と緑といった感じ。何故って、男は20代前半くらいと思しき風貌で、白く透明感のある肌に、顔の輪郭をなぞる様にして囲む、癖っ毛の少し長めの髪をしていた。瞳は鮮やかなエメラルドグリーンで、遠目にもよく際立つ。男の羽織る緑のコートは長く、格好つけた様に襟が半分立っていて金色に縁取られて、胸のところで小さくリボンが結ばれている。そして極め付けには、頭の大きさの割りにデカイシルクハットがちょこんと頭頂に座っていることだ。
私は引き続き状況が飲み込めず、かといってどこから質問していいやらわからず、我関せずとマイペースに紅茶を愉しんでいる男の行動をただぼうっと目で追っていた。白くて細い指がカップをソーサーの上に置き、カチャンと陶磁器が触れ合う音がすると、まるでひと段落ついたとでも言うように、落ち着き払って黙々と紅茶を飲んでいた男が口を開いた。