アルト号は高速だが、発進してしまえば生物の背中の上とは思えないほど安定していた。しかも走るときほとんど音も立てない。
周りの景色がぼやけるようなその速さは一体どのくらいなのか。超常現象すぎる。
「驚いてるの?」
ブランが私が目を丸くしているのを見て、興味深そうに尋ねた。
「そりゃ、こんな生き物私の世界にはいないから。何もかも不思議なことばかりだわ。」
「そう…。でもオレたちにとっては、君たちの世界の方が不思議なことばかりだけどね。」
そう言うと、ブランはまっすぐ前を見た、その目は何か遠くを見つめているようだった。
「…ついたぜー」
わずか数秒ばかりの無言の後、ボソリとアルトが呟いたと思った瞬間、またしても急停止で私は激しく前につんのめり、落馬ならぬ落犬しそうになるところを、後ろからタイミングよく伸びてきた腕にウエストの部分をぐいと力強く下から掬われて、背中の上に戻った。
「あ、ありがと。」
「どういたしまして。」
にこりと爽やかにそう言うブランは、何でもさらっとやってのけて、恥じらう様子のかけらもない。こっちはいちいちドギマギさせられてるってのに。
「…いちゃつかないでさっさと降りやがれそこ。」
一連の様子を見たアルトが不機嫌そうに言うと、バッと体を傾けて、私は滑り落ちるようにして地面に足からストンと着陸した。荒く振り払ったようで、怪我させないようにしているのだろうかアルトは。口が悪いのはツンデレなだけかもしれないと、ちらっとお礼を言うつもりでアルトの方を見ると、殺気立った瞳で何故か睨み返された。
「照れ屋だから。」
小さな声でブランが注釈を入れた。