電話の通り、夕方5時過ぎに祐也が来た。部活を休んで来たと言う。

「で、どうしたの?」
ストレッチをしながら聞く。

「えーっと、絵里子さんが風邪をひいててですね」
「え?」

「今日の俺の迎えを誰にも頼んでないんです。山口さん、帰り送って下さい」

「絵里子さん、そんなに具合悪いの?」

「さっきメールしたら『寝たら良くなってきた』って返信きたけど、あの人無茶するから」

「確かにそんな感じだね」
そうだよね。母子家庭だし、いろいろ無理してるんだろうな。

「だから…いや、何でもないです」

「何?どうした?言いかけてやめる?」

「いえ、何でも。とにかく送って下さいね」
祐也が困ったように笑う。

まぁいいか、とにかく絵里子さんの代わりにトレーニングが終わったら送り届けよう。



祐也は俺のSUVがお気に入りだ。
今日は助手席だ、やったーとはしゃいでいる。
そうか、いつも後部座席だもんな。

何度か送っているマンションの前に到着する。

「山口さん、部屋まで送って下さい。で、絵里子さんのお見舞いっていうか、あんまり無理しないように山口さんから言ってもらえませんか。たぶん、あの人起き出してうちのことやってますよ。洗濯とか夕飯の支度とか」
祐也がそう言い出した。

ん?
もしかして、それが目的?
探るように祐也を見つめると「えへへ」と笑い出した。

「始めからそう言えば良かったのに」

「だって、山口さん言っても来てくれるかわかんないし」

「まぁ、そうか。いいよ、行くよ。もちろん」

「やった。よろしくお願いします」

祐也がいつもの笑顔を見せた。
俺がいきなり自宅に上がってもいいのかな。