そろそろ会計をと立ち上がろうとしたところ、彼女がテーブルの脚につまづきよろける。
おっと、先に立っていた俺が彼女の腰を軽く支える。

「危なかったね」
「ほんと。ありがとう」
目を合わせて微笑み合い、レジに向かおうとすると、スッと目の前に若い女が立ちはだかった。

「最近、おばさんに付きまとわれてるって聞いたけど、このおばさんのこと?」
茉優だった。

長い髪を巻き、短めのスカートにブランドもののハイヒール。きれいにネイルアートされた指先で絵里子さんを指差した。

いきなりで驚き目を見開いていたが、すぐにいつもの絵里子さんのまなざしに変わった。
あの透き通るように凛々しく真っ直ぐなまなざし。
黙って茉優を見つめている。

「おい、いきなり来て失礼なこと言うな」
茉優と絵里子さんの間に入ろうとしたら、絵里子さんに腕をつかまれた。

驚いて、絵里子さんを見ると目を細め軽く頭を横に振っていた。口を出すなってことか。
そして、俺の前に半歩出て何と正面から茉優と向き合った。

茉優も驚いたようだ。
「何よ、何なの!
だいたい、いくつなのよ。恥ずかしくないの?若い男といちゃいちゃしてさ」
刃物のように彼女を傷つける言葉が続く。

「おばさん、金持ちなの?給料が安い男を囲ってんの?お金で若い男を買ってんの?おばさんならおばさんらしくおじさんと仲良くすれば!さかってるんじゃないわよ!」

きーきーと騒ぎ立てる茉優。
黙ってそれをじっと見つめる絵里子さん。
俺は口を出すなと絵里子さんに目で制され腕を捕まれたまま動けずにいた。

ここまで酷いことを言われるとは。
我慢の限界だ。茉優の腕をひいて店から引きずり出さなくては。
茉優に近付こうとした瞬間、はぁーと大きなため息が聞こえた。

絵里子さんだ。