翌朝、絵里子さんからメッセージがきた。

『おかげさまで今朝はスッキリです。ありがとう』

そうか、よかった。
俺は絵里子さんに触れた感触と彼女の残り香が忘れられず中学生男子のようによく眠れなかったけど。
あのまま抱きしめたかったな。

自然と頬が緩む。
絵里子さんとの距離を縮める機会を狙っていたんだ。
これはチャンスだ。



一緒に妹の結婚祝いを引き取りに行った日は、その後ドライブに連れ出した。

時間がある日を聞いていたから、ほぼ強引に。

初めはおとなしく助手席にいた絵里子さんが、途中で運転したいと言い出したのには驚いた。

「やっぱり私のとは視界が全然違うわね」
そりゃそうだよ。俺のは国産SUV車。あなたのはスポーツクーペ。着座位置が全然違うからね。

「車が好きなんですね」
「車もそうだけど、運転が好きなの」
運転席周りのメーター類やシフトノブをキョロキョロと見ている。

「いいですよ。運転席、譲りましょう」
「いいの?本当に?」
ぱあっとした笑顔になり「やった」と喜んでいる。

こんな感じで運転席を譲ったのだ。

運転席に座りシートの位置を直しながら
「山口さん、足長い。このままだと届かないわ」
と笑う。

「今頃気が付きましたか」

「ふふっ。結婚式で出会った時もまいちゃんと一緒にいた時のスーツ姿もとても格好いいなと思ってましたよ」

「それ、本気で言ってます?」

「もちろん」
にっこりとする。

こっちはどきどきしてるのに、絵里子さんはミラーの角度を調整しながら鼻唄とか歌い出すんじゃないかってくらいに上機嫌。

はぁ、心臓に悪い。

あの深夜の出来事から俺に対する話し方が柔らかくなった。さすがに完全なタメ口ではないけど。

俺はちょっと距離を測りかねている。
あの夜は強引に上から目線の会話をしたが、このノーマルな状態じゃ、どういう口調にしたらよいものか。