「…どうしよう、本当に顔上げられない。無理。…ごめんなさい」

「そんなことで困ってる絵里子さんもかわいいですよ」
背中をさすっていた右手で頭を撫でる。

「何も気にしなくていいんです」

「でも」

「でもじゃなくて。気にしない」
頭をぽんぽんとしてまた撫でた。

「そのまま俺が下りるまで下を向いてていいですよ。
さぁ、帰りましょうか。」

「…はい」

名残惜しいが時刻は深夜1時半を回っていた。明日はまだ平日。
以前、毎朝5時半すぎには起きて祐也のお弁当を作っていると聞いた。
早く帰宅させてあげないと。

「絵里子さん、恥ずかしいから俺ともう会わないとか、そういうの無しですからね」

返事がない。図星か。

「俺、どんどん連絡しますよ。祐也の許可ももらってますから」

「祐也?許可って何ですか?」

「絵里子さんを誘う許可」

また沈黙。

「絵里子さん、無事に家に帰れるか心配だから後ろを着いて走ります。絵里子さんは気にしないで普通に走らせて帰って」

「え、いいのに。大丈夫よ」

「ダメだよ、何時だと思ってるの。いいから。勝手についていく。ストーカーだと思われると困るから伝えただけ。さ、帰って」

ずっとうつむいている絵里子さんの頭をもう一度撫でてから車を降りた。

下を向いたまま。
「あの、ごめんなさい。本当にありがとう」

「気を付けて帰って。俺の事は気にしないで」
ドアを閉めた。

足早に自分の車に戻りエンジンをかけると、絵里子さんの車が通りに出るところだった。

間に2台挟んで付いていった。
すぐ後ろに付いて走らせたらミラーに写って気にするだろうから。

10分程走らせ住宅地に入る。
さすがに間にいた車はいなくなってしまったから広く車間距離をとりマンションの地下駐車場に入っていくのを見送った。