えっと吐息のような声が聞こえた。

笑いながら「俺、身体には自信あります。しっかり支えられますよ」
そして、真面目に絵里子さんの目を見て言った。
「だから、たまには頼って下さい」

少しすると「見られてたとはね」とこもった小さな声がした。

両手で顔を覆ってうつむいている。

「すみません。偶然なんですけど、見かけてしまって」

「…いえ。…私…あの時、自分では泣いているつもりもなかったんですよ」
困ったような声だった。

どういうことだ?

「あの、泣くためにひとりでドライブしてたわけじゃなくて。気が付いたら涙が出ていたというか…」

「でも、何かあったんですよね?あ、すみません。話したくなかったら話さなくていいです」

「何かあったというか…」ふぅーっとまたため息をつく。
「自分の無力さを痛感して」

ちらっと見ると彼女は前方を遠い目をして見つめていたがふいに「私、泣きだしたらうるさいかも」と言った。

「気にしませんよ」
できるだけ優しく言った。

そして、また静かになった。

しばらく待つとふるふるっと肩を震わたのを感じた。

彼女はずっと静かに泣いていた。

絵里子さんの頭を右手で数回撫でた後、あやすように背中をそっとさすった。

「強いあなたも弱いあなたも同じように支えます。頼っていいんですよ」

身体をまるめるように小さくしている絵里子さんは少女のようだ。

いつしか2人の呼吸音しか聞こえない。

彼女の香りがする。
フローラルのような、いや、もう少し甘い香り。このまま首すじにキスをして直接香りを堪能したい気持ちになる。

いや、ここで襲うような真似はできない。誘惑に耐えていると
ふぅーっと息を吐いた後「山口さん」うつむいたままの絵里子さんのかすれた声がした。

「うん?」
やさしく返事をする

「あの…えっと…酷い顔になっちゃって…顔が上げられなくなっちゃって…」