「あの、まいちゃんはあれから大丈夫でしたか?」

「そう、そうだわ。あの時はお世話になってしまって。本当にありがとうごさいました」
手に持っていたコーヒーをテーブルに置いて、こちらに身体を軽く傾けペコリと頭を下げた。

膝が当たりそうなほど近い。

頭を下げた時にふわっと絵里子さんの香りがする。
香水ではない少し甘く良い香りに胸が高まる。

まいちゃんが抱き付きたがる気持ちがよくわかる。
まいちゃん、俺も絵里子さんを抱き寄せたいよ。

思わず苦笑すると、俺のこの苦笑があの夜の出来事に対してのものだと勘違いしたらしい。

「私ももしかしたら、2人で出かけていたのかしらってチラッと思ってしまって…本当に失礼しました」
またうつむいてしまう。

「そんな風に見えましたか?」

「ええ。2人ともおしゃれしてましたし」

「そういえば、まいちゃんはハイヒール履いてましたね」
どんな洋服を着ていたかなんてもう覚えてないけど。ハイヒールでよろよろと走っていたのは覚えている。

「山口さんのスーツ姿は素敵でしたよ」
にっこりしてくれる。
絵里子さんの笑顔はあたたかい。

「ありがとうございます。何だかうれしいな」

「普段はスポーツウェアだし。あ、飲み会の時の私服も素敵ですけど、スーツ姿は見慣れなくて。山口さんはスタイルがいいしスーツもよくお似合いでした」

「うわ、褒めすぎですよ」
照れくさくてコーヒーを飲んでごまかす。
絵里子さんはにこにこしたまま。

でも…って言うと表情を曇らせる。
「あの日、まいはちょっと知り合いとトラブルになりかけたらしくて」少し困った様子で「逃げてたところだったらしいです」
「え?」

「あの、そちらは解決してます。でも、次に山口さんにお会いしたらお詫びするって言ってました」

「そうだったんですか。でも、言いたくなかったら言わなくていいって伝えて下さい。無理することはないので」

「まぁ、まいがバカだったんですけど。でも、ありがとうございます。伝えます」

まいちゃんのことは少し気になっただけで、本当に絵里子さんに誤解されていないかの方が気になっていたんだ。
よかった。

「あ、ごめんなさい、そろそろ時間だわ」
時計をチラッと見る。
「絵里子さん」
「はい」
「連絡先を聞いてもいいです?次に一緒に行っていただく連絡をしたいし。祐也くんのお迎えも俺とは会えない時があるようだから」

俺が何を言いたいのかわかったらしい。
「先週ですよね。祐也の伯父が私の代わりに来てくれて」