「は?付き合うって誰と誰?えっ?」
絵里子さんはまいちゃんと鈴木の顔を交互に見て首を傾げる。
困惑している様子だが、何の話か気が付いたらしい。

「ない、ない!ないっていうか有り得ないわ!そんな事凌くんに失礼でしょ。私をいくつだと思ってるの!」
慌てて否定し、両手を左右にぶんぶんと振っている。

「じゃ、お店でもこの飲み会でも『鈴木さん』って呼んでいるのに、一体いつ鈴木さんのこと『凌くん』なんて呼んでるんですか?」
木田が鋭い指摘をする。

「え」絵里子さんが固まり、隣にいる鈴木の顔を見た。

鈴木が口を開いた。
「そりゃ、俺と2人きりでいるときでしょ」

そう言って優しく絵里子さんを見つめた。

きゃーっと絵里子さんの後輩の歩ちゃんと由美ちゃんが悲鳴をあげる。

「鈴木さんのそんな顔、初めて見た…」
木田がつぶやく。

「凌くん、ちょっと待って。そんな誤解を招く言い方をして」
絵里子さんはぎょっしているが、俺はかなりのショックを受けていた。

絵里子さんは鈴木と付き合っている?そういうこと?

ちらっと俺を見る鈴木。

「凌くん、みんなにあの話をしてもいいかな」
絵里子さんが鈴木のシャツの袖をぎゅっと握る。
鈴木は笑顔で絵里子さんを見つめる。

そんな姿も2人の親密感が出ている。

「私と凌くんはそういうんじゃなくて…」絵里子さんが話し始める。

「あっ」鈴木が胸ポケットに入れていた携帯を取り出した。着信があったらしい。
絵里子さんは話すのを中断して鈴木を見つめる。
「うん、うん、わかった。ああ、そこで待っていろ」

「絵里子、祐也がもう終わったって。ほら、迎えに行くよ」
「え。あ、うん」

電話を終えると、財布からお金を出すと俺に渡してくる。
「山口さん、これで俺と絵里子の会計お願いします。今から祐也の迎えに行くんで、今夜はお先に失礼します」

そして、さっさと絵里子さんのコートと荷物をつかむと片手に抱え、空いてる手で絵里子さんの腕を取って立たせるて「さぁ、早く」と背中を押して連れて行こうとする。

「あ、あの、みんなごめんね。また説明するね。祐也のお迎えがあって急ぐからまた」
絵里子さんは俺をチラッと見た……気がした。
慌ただしく2人は先に店を出て行った。

何だかスッキリしない。

鈴木は『凌くん』と呼ばれていた。
絵里子さんのことは『絵里子』と呼び捨てて。
そして祐也から鈴木の携帯に電話連絡が入っていた。
これが意味するものは?