「きゃっ」
絵里子さんの声が聞こえた。
酔ったまいちゃんがまた絵里子さんに抱き付こうとしていたらしい。
隣にいた鈴木が絵里子さんを引き寄せ、まいちゃんと口論をしていた。
「またまいちゃんが何かした?」
「あの2人、絵里子さんをはさんで遊んでるんじゃないのか」
「まいちゃん、前回は絵里子さんに抱き付いて胸に顔に埋めてたしな。今日は何したんだろう」
俺たちもこの騒ぎに慣れてきた。
酔った絵里子さんに抱き付きたがるまいちゃん。
それを阻止する鈴木。
まいちゃんと鈴木がけんかしないように止める絵里子さん。
いつもの流れ。
ん?あれ?でも今日のは少し雰囲気が違うかも。
絵里子さんが鈴木の腕にすがり付いて口論の仲裁をしている。
「凌くんやめて」
は?絵里子さんが今『凌くん』って言ったのか?
『凌くん』と呼ばれた鈴木はニヤリとして、明らかに俺を見た。
お前、一体何?
絵里子さんは鈴木とそんなに親しいのか?
絵里子さんは鈴木の腕にしっかりとしがみつく。
「凌くんったら。違うから」
やっぱり『凌くん』と言ってる。
しかも呼び慣れた感じで。
そして鈴木の腕を両手で掴んだまま話をしている。
「凌くんって?」
全員が絵里子さんと鈴木に注目する。
まいちゃんが遠慮がちに声をかけた。
「あのー、もしかしてお二人は個人的に深い関係ありとかですか?」
絵里子さんはハッとしたように鈴木を掴んでいた両手をパッと離した。
「え、えーっと鈴木さんは祐也のトレーナーさんで…」
顔を赤くしてしどろもどろの返答になる。
いつものクールビューティはどこに。
「絵里子先輩、『凌くん』って呼んでおいて今さらですよ」
まいちゃんがたたみかけるように言う。
そうだ、そうだ。
「あー、うん。祐也が『凌さん』って呼んでいて、鈴木さんよりかなり年上の私が『さん』づけもどうかと思うし。身近に共通の知人の鈴木さんがいて紛らわしいし…まぁ、もちろんお店では『鈴木さん』って呼んでいるんだけど」
苦しそうな絵里子さんはちらっと鈴木を見た。
鈴木は何も語らずニヤっとして絵里子さんを見ている。
「いや、2人は付き合っているのって話しですよ」
まいちゃんがストレートに聞いた。
周りはうんうんってうなずいていた。