車線変更をして青のクーペの隣の右側車線に出る。
そこで信号が赤に変わり、運良く隣に並んで停止する。

運転手を確認して本当に絵里子さんだったら、こちらの助手席の窓を開けて手を振ろうと青のクーペの運転席を見る。

やはり絵里子さんだった。
隣に祐也はいない。1人だ。

いつものようなおだやかな表情はなかった。
きりりとした横顔。

はじめて見たあの夜のようにスッと背筋を伸ばし、真っ直ぐ前を見つめていてこちらに気が付く様子はない。
そのまなざしは強く前方にある何かを射るようだった。

こちらの存在をアピールすることはできなかった。

彼女が唇を噛みしめたかと思ったら、その大きな瞳からほろっと涙がこぼれ落ちていったのだから。

ギョッとした。
そして、彼女は流れる涙を拭うこともせず、真っ直ぐしっかりと前を見つめていた。

まるで泣いていることに気が付いていないかのように。

やがて信号が変わり、発進した。
もう隣に並ぶことはしなかった。

あの出会った夜と同じ。
また泣いていた。
もしかして、彼女はいつもそうやって泣いているのだろうか。

飲み会の後でまいちゃん達後輩が言っていた話を思い出した。

『いつも他人のことばかり』
『自分のことは後回し。自分の辛い時はどうしているの』
『他人の辛さをわかってくれて癒すことばかりして』

絵里子さん。