責任者連絡会議を終えて本社の駐車場を出たのは23時になろうかという遅い時間だった。
少子化社会の今、1人の子どもにかけるお金は多く専門性に特化したキッズ産業は今やドル箱といったところか。
オリンピック招致もあり、ますますアスリートを目指しトレーニングするジュニア世代の取り込みが盛んになるだろう。
うちの会社の上層部も自社からオリンピック選手を出そうと必死の様子。
今まではプロアスリートとだけ契約していたのが、今後は将来性のあるジュニア世代にも目を向けて契約を考えていくらしい。
あいつらはキッズなんて金儲けの道具程度にしか考えていない。
Jリーガーになりたい、プロ野球選手になりたいなんてそんな夢を見る子供たちを勧誘して、練習後や休日に週1から2回パーソナルトレーニングをする。そんな些細なサポートをするだけ。でも、親たちは喜んで決して安くない金を出す。
そこで得た資金を使いプロアスリートを支援していた。
俺から見たら、それは決してジュニア世代を積極的に育成しているように見えなかった。もっとしてあげられることがあるだろうと。
何度か上層部に発言をしたが『キミは経営ってものがわからないから』と言われて終わり。
今日の会議で発表されたジュニア世代との契約だって、もう既に結果を出しているジュニアに声をかけるだけで、最初から育成しようとは思ってないはずだ。
俺の人生をこのままこの会社で上層部のいいなりで動いていくのが正解といえるのか?
そんな事を考えながら運転していた時だった。
赤信号で前方の右側のレーンに止まる青のクーペが見えた。
笹森さんと同じ車だ。
青のクーペとの間には1台の乗用車。
真後ろにならなかったから、後ろに俺がいるとは気が付いていないだろう。
信号が青になり青のクーペに続いて前の乗用車と
俺の車も発進する。
ただ、笹森さんの車か確認して、青のクーペを運転する絵里子さんの顔をちらっと見たいと思っただけだった。
彼女の顔を見て癒されたかった。
次の信号でとなりに並び、助手席に祐也がいれば手でも振るつもりだった。