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世界で一番綺麗な蝶、と云われている蝶がいるらしい。


モルフォチョウ、と名前を聞いて、スマホで打ってみると成程『モルフォ』まで打つと出てくる。調べると確かに綺麗な色をしていて、納得してしまうくらいには見事だった。


Morpho、というのはギリシャ語で『形態』、『美しい』を意味する言葉であるらしく、アメリカの方にいる大型の蝶だそう。その透き通るような輝く青がどんな理由で見えるものなのかも書かれていたが、文系の私にはよく分からない。分からなくてもいい、と思いながら、私はモルフォチョウのページを閉じた。


綺麗すぎて、見ていられない。ずっと見つめていると自分の汚さが浮き彫りになってくるような気がして、怖くなった。


世界一綺麗、と云われているが、汚いところはないのだろうか。こう、毒があるとか、食べているものがなんかアレだとか、汚いというか、欠点というか。完璧すぎるものは、苦手だ。どうしても身構えてしまって、素直に見ることができない。


人の汚いところを、何度も視てきた。視たくもないのに、自分に備わった奇妙な能力はそれを許してはくれない。人を信じようとしても、そうやっていつも透けて見える汚い本音のせいで、信じる、ということが何よりも難しいことのように思えてならないのだ。


私には、人の本心、というものが視える。


物心ついた時にはもう既に。私の周りは綺麗な表面だけの言葉と汚い本心とが渦巻いて、うるさくてうるさくて仕方ないセカイだった。


何度か耳を潰そうとして、その度にやめなさいと言ってくる父親も、傷ついて欲しくないという母親も、本当は外面を恐れて止めていることは、残念ながら分かっている。昔は言っていた能力のことを、この両親は理解していないのだろう。誰かと一緒にいるのはとても苦痛で、だから私は、ネットのセカイに逃げ込んだ。


ネット越しの言葉の本心まではわからない。それに、ネットにいる人々が早々偽った言葉を言っていることはない。彼らの大半は、リアルで偽ることに疲れて本心を隠さずにいられる場所を探してやってきているのだから。


かちゃり、と部屋の鍵を閉めて、暗闇にぼんやりと光るパソコンの画面を見遣る。普段使いの眼鏡をパソコン用のものに変えて、キャスター付きの椅子にすとんと座り込んだ。手元には温かいココア、足元はもこもこのスリッパで防寒。最後に膝に膝掛けをかけたら準備完了。


今日は人、少ないなあ。


某青い鳥のタイムラインを眺めながら、ぽつり、呟く。仕事か、部活か、課題か、それともゲームか読書かの趣味か。


集まる年代はばらばらで、共通点として挙げるのなら同性の方がまだ多い、ということくらいだろうか。あとお年寄りは少ないかもしれない、と思いながら返信を終えると手持ち無沙汰になってしまう。