[陽side]

春休み明けの学校は本当にだるい。
昼と夜が真逆の生活になっていた俺にはこんなに朝が辛いとは思ってもみなかった…。
春休みは先輩達のグループに混ざってバイク乗り回したり、酒呑んだり、まぁ好き勝手やってたから当然だよな。バチあたったって感じ。




「はーるー、起きてっかー?」
「陽ー、燐くんが来てるよ。早く部屋からでてきなさい」
「おー、燐、悪いな。今起きたわ」




こいつは杉崎燐(すぎさきりん)。高校入ってからの友達。暗めの金髪が燐の整った顔にはよく似合っている。軟骨につけているピアスは元カノから1年記念日か何かにもらったやつらしい。それを未だにつけられる燐も尊敬してしまう。俺とは正反対の性格で女子に優しく、その甘いマスクで何人の女を落としてきたのだろう。男の俺でさえも燐はかっこいいと思う、がちの話。




「昨日も夜遅くまで遊んでたんじゃねーの??」
「当たり笑」
「陽って朝弱いくせに始業式前日にそーゆうことするからバカだよな」
「うるせえな。ほっとけよ。それにそもそも始業式なんて行くつもりなかったんだよ」
「はいはい。言い訳はよせよ。見苦しいぜ??」



そんなこんなで燐と話しながら学校に向かう急な坂道を登っていた。案の定、周りの目が痛い。でもそんなの慣れた。だけどいい気持ちはしねえもんだよな。




そんなこんなで少し高台の上にある学校についた。不良ばっか集まるからわざわざ周りと隔離されたような場所に学校がある。だから何かと遠い。




校門に着くと、俺のもう1人の友達の佐伯涼真(さえきりょうま)が地面に座ってスマホをいじっていた。春休みに染めただろう綺麗な赤毛は少し童顔の涼真にはよく似合っている。
そんな涼真と合流して、クラス替え表に向って歩くと





「きゃぁぁぁぁ!!」
「七瀬くーん!!」
「燐くーん♡」
「涼真くんこっち向いて~」




嫌味とかじゃねぇよ。もうこういう女の取り巻きにも慣れた。かっこいいだのなんだのって叫んでさ、何になるっつうの?俺はこういう女が1番嫌いだ。性格悪いとか自分でも分かってるよ。





「元気だな」
「今日も女の子たちすごいね~」
「迷惑だけどな。燐は嫌じゃねえの?」
「女の子は皆可愛いから嫌じゃないよ??」
…こいつに聞いたのが間違いだったな。燐は女の子大好きだったんだよな…。
まぁ、とりあえずクラス替えのやつ、燐と涼真のもついでに見てくるか。




俺が歩けば女は目をハートにして、男はライオンを見て怯える鹿のような目をして道を開ける。どこにいても、何をしても目立つ。正直めんどくさい。




……俺の名前どこだ??…あったあった。お、燐と涼真も一緒か。
他に知っている人がいないかもう1度上から順に名前を見ていく。そして俺は1人の女の名前を見つけた。





“如月杏奈”






嘘だろ…。嬉しいような、嫌なような。正直言うと嬉しいのが勝ってる。何言ってんだろうな。自分勝手だと自分でも思うよ。





だって杏奈を遠ざけたのは誰でもない。
この俺だから。





中学んとき、まぁ興味本位で入った先輩達のグループを抜けられなかった俺は杏奈に迷惑をかけたくなくて避け始めたんだ。だって、仲良くしてたら先輩たちは杏奈にからむだろ?





その結果、案の定俺と杏奈の間には他人のような距離ができた。
高校だって正直行こうとか思ってなかったし現場で働こうと思ってた。
だけど杏奈がここの高校を選んだって聞いてすぐ志願したよ。先生には“お前の学力じゃ無理だ”って言われてたけどそんなの無視して受けた。
入学式のとき杏奈に話しかけられたのは自分でもびっくりした。
久しぶりに杏奈と話せた嬉しさと緊張で何と言っていいかわからなくて黙ってしまった。
だけどふと頭の中をよぎったのは…





“俺と杏奈は一緒にいちゃいけないんだ。杏奈を危険な目に合わせないためには”





だから俺はこう言ったんだ。





「…俺に関わんない方がいいと思うよ」





あの時の杏奈の顔が今でも忘れられない。
なんて俺はひどいことを言ったんだろう。





そんな杏奈と同じクラス。これからどうやっていけばいいんだよ…






「なぁ燐。陽って今日不機嫌なの?」
「まぁな。涼真、余計なこと言うなよ」
「分かってるって。さすがにそこまで馬鹿じゃねーしよ」






2人がそんな会話をしているのを聞き流しながら俺は新しい教室に向かって、1歩…また1歩と着々と近付いていった。






「いやー緊張すんね!陽、涼真!」
「わかるわ〜何気な」
「可愛い子いっかな!!あ〜楽しみ」
「燐はそれしか考えてねーのかよ笑」
「うっせーよ!!陽こそモテんだからそろそろ彼女とか作ったほうがいいんじゃねーの」
「余計なお世話だ」






そんな話をしてたらあっという間に教室についた。燐と涼真が教室に向かう中、俺だけが立ち止まった。






杏奈。






杏奈が教室のドアの前で立っている。
久しぶりに見る杏奈の横顔。
あいつ、化粧なんか始めたのかよ。スカートも短けえ。この世の中、変な男が多いっつうのによ。






「あの子って如月杏奈だよな?」
「え、なにあの子俺らとクラス一緒だったんかよ」
「お前、知ってんのかよあいつのこと」
「知ってるも何も、入学した時から有名だっただろ!」
「え?」
「え、何お前知らないの??」
「学年1かわいいって噂だったじゃん。んでいつも一緒にいる美緒、って子も美人だって」
「は、、?」






そんな話、聞いたことなかった…
あいつ陰でもててたんかよ。知らなかった。