__________帰ろ。彼女のいない飲みの席になど、何の意味もない。
シラけてしまった心を手持ち無沙汰に、そのまま大通りに出る。
二次会、行かないとも行くとも答えなかったな。
まぁいいか、どうせ後から携帯が鳴る。人の流れでタクシーに乗ってしまったと答えよう。
終電までは、まだ少し余裕のある時刻。
タクシーを捕まえにくいこの通りでも、今なら一台くらいどうにかなるはず。
車道に出て、ガードレールに腰を預けた。見上げた月は猫の引っ掻き傷のように細くて、“猫”というキーワードにまた君を思い出す。
どうしてこうも、うまくいかないんだろう。
きっかけなんて何だっていいはずなのに。
明日の天気とか、担当先の笑い話とか。
君から借りた傘を未だに使えずにいることとか。
きっかけさえ掴めれば、あとはどうとでもなりそうなのに。
君を前にすると、当たり前のことが当たり前じゃなくなる。
片思いって、こういうものだったのか。
もしもそうなら、これまでの片思いは恋ですらなかったんだと思う。
近づく“空車”の光に気付き、腰を上げる。手を挙げる前に、こちらの様子を察知してウィンカーを出しながら寄せて来る。
ついてたな。こんなに早く、ここでタクシーを捕まえられるなんて。
瞬間、知った香りが風に流れた気がして。
振り返ると、水色のマフラーに頬を埋めた君がいた。