『この世界から悲しみが消えてしまえば、素敵な世界になると思いませんか。』

彼女は言う。

「それは、悲しみが消えたときに分かるものだ。」

でも、と付け足し彼は言う。

「喜、怒、哀、楽、これは、人間が持つ様々な感情だ。キミも知っているだろう。」


『えぇ、もちろん。』


「喜怒哀楽という言葉まであるんだ。それがなくなって良いはずがないと僕は思う。」


それは、もっともな答えだ。

だが彼女は、そんな当たり前の答えを求めているわけではない。

かといって彼を咎めるようなことはしなかった。