「綺羅(きら)、今日入ってたな」

教室に入るなり、浩介(こうすけ)が俺に向かって言葉を投げかける。

「だな」

「もっと喜べよな、モテることに誇りを持て」

「はいはい」

別に嫌な気はしない。

不定期に下駄箱に入っているラブレターと呼ばれるであろう手紙。

「誰だか分からないし」

俺の一番の感想はこれだ。

”誰だか分からない”事ほど恐ろしい事はない。

学校の下駄箱に入っているから、ここの学校の生徒である事はほぼ間違いないが、これが家の郵便ポストに入っていたら警察沙汰に代わり、呑気に”青春”という言葉で片付けられなくなる。

「お前、イケメンだけど声かけ難いからな、ラブレターを選ぶ女子の気持ちは分かる」

「何だよ、それ」

俺の事を棚に上げる浩介だが、陸上部の短距離で成績を残す、世間で言うスポーツの出来るイケメンであり、女子から絶大な人気がある。