ありがちではあるが、我が校の体育祭で行われる借り物競走には、10枚に1枚、特別な借り物が含まれている。

それは、『好きな人』。

借り物を指定する札の中に、そう指定するものがあるのだ。

女子生徒は毎年、この札を獲得するために色めき立つという。

とはいえ、私はこの競技には参加しない。

コツコツと築き上げてきたものを安易に壊したくはないし、そういう形で告白するのは理想ではないのだ。

だが、『される』側は別だ。

この借り物競走に、伶音くんは参加するのだ。

私は、少しだけ期待していた。

もし伶音くんに『好きな人』の札が当たったら、誰を指名するのだろう。

間違いなく、今彼に一番近い女子は私だ。

そう思うだけでドキドキしてしまう。

はじめは、いつものように取り巻きに指示をして伶音くんに『好きな人』の札が当たるように工作するつもりだった。

だけど、もし私を指名しなかったら。

そんな恐怖が胸の奥底に燻っている。

それに、こうした運にロマンが存在するものを、無理矢理自分の方に引き寄せるのは、納得出来ないと思ったのだ。

せめてもの譲歩として、伶音くんの走る回にその札が来るように、ということだけを、取り巻きには命じた。

今行われている障害物競走が終われば、次は借り物競走だ。

今、最後の走者がスタートした。

次回入場の待機集団に、なんとはなしに視線を送った。

この中に、伶音くんがいる。

小さな不安、そして緊張。

無意識に伶音くんの姿を探しながら、時がすぎるのを待った。

もしその札を彼が引いたら、きっと指名するのは私だ。

自分自身にそう言い聞かせておかないと、体がバラバラに壊れてしまいそうだった。

大丈夫、大丈夫。

私は呪文でも唱えるように、小さく繰り返し続けた。