予鈴が鳴る。

昼休みの終わりを告げる。

その音で、私と伶音くんは足を止めた。

「やっぱり昼休みは短いな」

「そうね……戻りましょ」

伶音くんが二人の脚を結ぶ紐を解いた。

「最後の練習、終わっちゃったね」

「ええ。でも、この調子なら本番を迎えても平気よね?」

「そうだね」

教室へと戻る道すがら、2人は明日の体育祭のことを話し合った。

放課後は体育祭準備が始まるから、この前日の昼休みが最後の練習時間だった。

だがこうして本番を明日に控えても、不安は何も残らないほどに練習の結果はよかった。

最初の頃は私がかなり足を引っ張っていたが、徐々に2人の息が合ってきて、今では足を繋いでも、まるで二人で一人の人間のように、何も違和感なく走ることが出来ていた。

私が一人で同じ距離を走る時間と、そう変わらないタイムを記録している。

こうして二人で並んで校舎内を歩くのも、入学当初は照れくさかったけれど、今は驚くほどに自然だ。

勿論、すごくドキドキするのだけれど。

また、二人の距離が近いことは、取り巻きの手を借りずとも勝手に噂として広まった。

実際、噂だけでは諦めきれず、どうにか私の裏をかいて伶音くんと懇意になろうとしていた女子が、私達が二人三脚の練習をしているのを見て、身を引いたこともしばしばあったという話だ。

私が伶音くんの隣を歩いても、誰も疑問に思わない。

伶音くんさえも、それを当たり前のように思っている。

まるで、本当のカップルのようだ。

伶音くんも、私と同じようにドキドキしてくれているのだろうか。

私がときめいているのと同じように、感じてくれているのだろうか。

そうだとしたら、どんなに嬉しいだろう。

「柚姫」

教室を前にして、伶音くんが私を見て微笑んだ。

「明日、絶対勝とうね」

「ええ……絶対!!」

私は、この夢のような時間を信じていた。

夢のような幸せ。

心臓が弾む。

笑顔に笑顔で返事をして、二人で笑い合いながら教室に入ると。

「おい、伶音、何教室でイチャついてんだよ!」

すかさず伶音くんの親友である千駄ヶ谷くんからヤジが飛んできた。

「うるせー!」

伶音くんはそれを否定するでもなく、ふたりじゃれ合いを始めた。

イチャついている、ということを伶音くんは否定しなかった。

少し気が大きくなっているのはわかってる。

だけど、少しは期待してもいいのだろうか。

また、胸が高鳴る。

微笑ましくそれを見ていると、本鈴が鳴り、先生が入ってきた。

運動した後にも関わらず元気に遊んでいた伶音くんも、大人しく私の隣に座った。

号令がかけられ、教科書を開き、先生が黒板に何かを書き始めても、私の鼓動は早いままだった。

板書をしつつ、チラチラと伶音くんを伺い見る。

二人三脚の練習をしている時と同じ、真剣な顔だ。

何に関してもマジメな伶音くん。

その表情に、またひとつ、鼓動が早くなって。

小さく微笑んでから、幸せを噛み締めながら、前を向いた。