「あれ、柚姫、ちゃんと休んでる?」

タイミングよく帰ってきた伶音くんは、スポーツドリンクのボトルを2本持っていた。

「休んでるわよ」

「そう? ならいいんだけど……はい、これ。飲んで」

持っていたボトルを問答無用で渡される。

「いいの?」

「うん。汗流したらちゃんとスポドリ飲まなきゃ」

思いがけないプレゼントが嬉しすぎて、立ち尽くしてしまう。

少し暗いことを考えていただけに、地獄から天国へ引き上げららた気分だった。

何でもない贈り物が、私の中ではとても大きい。

「ありがとう」

大事に飲んだそのスポーツドリンクは、なんだかとても美味しい気がした。

「ううん、俺の方こそ、練習付き合ってくれてありがとう。ていうか、無理させてごめんね」

「そんなこと……」

そう、この練習を提案してきたのは、何を隠そう伶音くんの方なのだ。

何でも3年の選手の中に男子バスケ部部長がいるらしく、闘志を燃やしているのだ。

部長は伶音くんが二人三脚に出場すると知るや否やライバル宣言をしたのだそうだ。

因みに、その部長のペアは春乃先輩だ。

「元々負けず嫌いなのもあるんだけどさ、部長に煽られたら絶対勝たなきゃダメじゃん」

伶音くんが優勝を目指す理由に、ジンクスは関係ない。

それでも、同じ1位という目標に向かって毎日頑張れるのは嬉しかった。

「そうね。絶対一位になりましょう」

伶音くんとは違う思いを込めて、噛み締めるようにそう言った。

「この後だけど、まだ出来そう? それとも、そろそろ帰りたい?」

ドリンクをあっという間に空にした伶音くんに問われる。

私はまだ元気だ。

でも、伶音くんのそばには、どれほど居ても足りない。

「まだ平気よ。やりましょう」