その日の放課後。

私は部活に遅れることを連絡すると、旧校舎の空き教室に居た。

旧校舎は現在、倉庫としてしか利用されていない。

殆ど人が来ないことで、内緒話をするのにうってつけだ。

わざわざ伶音くんと2人きりで部活に向かうという自分への御褒美を捨ててまでここに来たのには、理由がある。

私の目の前には、3人の女子生徒がいた。

1人は三年生の女子、2人は1年C組の女子。

因みに、私と伶音くんは1年H組だ。

この3人は、全員私の息がかかった者達。

私の権力が目当てで擦り寄ってきた者も、見返りを与えてこちらから引き入れた者もいる。

全員、それなりにそれぞれの集団に影響力を持っている子達ばかりだ。

「あなた達にしていただきたいことはただ一つ。市川夏芽に、私を印象づけることよ」

3人とひとりひとり、しっかり目を合わせながら告げる。

「1年C組で、美術部所属の市川夏芽。彼女に、私と中野伶音くんが懇意であることをわからせるの」

市川夏芽と、伶音くんは特に接点はない。

あの時、順位表の前で伶音くんが彼女を知った時も、伶音くんは彼女に声をかけたりはしなかったし、二人は会話を交わさなかった。

だけど、小さな不安が私の胸の中には燻っていた。

「これまで通り、噂を流すだけで構わないわ。だけど、彼女には特に気をつけてほしいの。そしてもし、市川夏芽が中野くんを話題に出すことが少しでもあれば、報告して頂戴」

この場で唯一の3年生である先輩に目を向ける。

彼女は、市川夏芽が所属する美術部の部長だ。

「別に、市川夏芽に危害を加えろなんて言ってないのよ。ただ、彼女が決して中野くんに接触することがないように気をつけてほしいの。それだけ。そうして下さったら、先輩の大学への推薦を私は口利きできるわ」

三人全員が私の『お願い』に頷いたのを確認すると、私は空き教室から出て、バスケ部の活動場所である体育館へと向かった。

胸の奥の不安は、まだ、消えていない。