「伶音くん、試験の結果が貼りさだれているみたいよ」
試験の翌週。
昼休みに試験の順位表が発表されたという情報を受けて、私は伶音くんに声を掛けた。
あの試験で、私は伶音くんから解説を受けたおかげで今までにないほどの手応えを感じていた。
反対に彼は、僅か数時間の勉強ではやはり限界があったらしく、かなり悔しい思いをしたようだ。
「柚姫は、かなりよくできたんだっけ?」
「ええ、伶音くんのお陰よ」
「俺こそ、柚姫のおかげで赤点は免れだと思うよ」
二人で並んで、順位表が張り出されている渡り廊下へと向かう。
私たちの後ろを数メートル開けて、理沙がついてくる。
彼女は、私が伶音くんといる時はいつもこうして、遠くから私に従っている。
「もう結構人が集まってるみたいね」
渡り廊下に辿り着くと、既に人だかりができていた。
私は背の低い方ではないが、背伸びしても軽く跳ねても、順位表は視界に入らない。
理沙に頼んで人垣を崩そうかしら、なんて思っていると。
「俺が見てあげる」
私より頭一つ背の高い伶音くんが背伸びして、順位表を読み上げてくれた。
なんてことないはずなのに、その男の子らしい行動に、ついキュンときてしまう。
「1位 市川夏芽。2位…俺。柚姫は、10位だね」
「え、私が10位!?」
喜びで思わず声を上げる。
県内随一の進学校であるこの学校で10位。
自分なりに頑張ったつもりではあるが、ここまでの点数を取れるとは思っていなかった。
でも、それよりも。
「伶音くんだって凄いわ。だって、赤点かも、なんて言ってたのに2位だなんて」
「柚姫のお陰だね」
「伶音くんならきっと、私の助けがなくたって好成績だったのよ」
ここ最近の懸念がなくなり、肩の荷が降りた2人は笑い合う。
すると、そんな時。
「あ、ねえねえ夏芽! あんた1位だってよ! 1位!」
「ちょ、華! そんな大きい声で……やめてよ」
集団の前の方で、一際大きな声が上がり、それを大人しそうな声がたしなめる。
一瞬人垣が割れて見えたのは、顔を真っ赤に染めて俯く黒髪の女の子だった。
濡れ羽色のツヤツヤした髪を耳の下で切りそろえるボブヘアー。
垂れた大きな瞳は、恥ずかしそうに歪んでいる。
あの子が1位の、市川夏芽さんか。
もしあの子が入学試験で首位を取っていて、壇上に上がったのが彼女だったら、私は伶音くんに一目惚れすることは無かったのかしら?
いいえ、きっとそんなことは無い。
どんな運命になったとして、きっと私は彼に惹かれていたはずだから。
「あの子が、1位か……」
1人で悶々としていると、伶音くんが呟いた。
ふと彼の目を見ると、真剣な眼差しで集団の真ん中を見ていた。
私の位置からは見えないけれど、その視線の先には市川さんが居るのだろう。
「市川、夏芽……」
ぽつり、と伶音くんが呟いたのは彼女の名前。
学年2位の彼が、首席の彼女を気にするのは何ら不思議な事じゃないはずなのに。
私は、胸の辺りが微かにざわつくのを感じた。
試験の翌週。
昼休みに試験の順位表が発表されたという情報を受けて、私は伶音くんに声を掛けた。
あの試験で、私は伶音くんから解説を受けたおかげで今までにないほどの手応えを感じていた。
反対に彼は、僅か数時間の勉強ではやはり限界があったらしく、かなり悔しい思いをしたようだ。
「柚姫は、かなりよくできたんだっけ?」
「ええ、伶音くんのお陰よ」
「俺こそ、柚姫のおかげで赤点は免れだと思うよ」
二人で並んで、順位表が張り出されている渡り廊下へと向かう。
私たちの後ろを数メートル開けて、理沙がついてくる。
彼女は、私が伶音くんといる時はいつもこうして、遠くから私に従っている。
「もう結構人が集まってるみたいね」
渡り廊下に辿り着くと、既に人だかりができていた。
私は背の低い方ではないが、背伸びしても軽く跳ねても、順位表は視界に入らない。
理沙に頼んで人垣を崩そうかしら、なんて思っていると。
「俺が見てあげる」
私より頭一つ背の高い伶音くんが背伸びして、順位表を読み上げてくれた。
なんてことないはずなのに、その男の子らしい行動に、ついキュンときてしまう。
「1位 市川夏芽。2位…俺。柚姫は、10位だね」
「え、私が10位!?」
喜びで思わず声を上げる。
県内随一の進学校であるこの学校で10位。
自分なりに頑張ったつもりではあるが、ここまでの点数を取れるとは思っていなかった。
でも、それよりも。
「伶音くんだって凄いわ。だって、赤点かも、なんて言ってたのに2位だなんて」
「柚姫のお陰だね」
「伶音くんならきっと、私の助けがなくたって好成績だったのよ」
ここ最近の懸念がなくなり、肩の荷が降りた2人は笑い合う。
すると、そんな時。
「あ、ねえねえ夏芽! あんた1位だってよ! 1位!」
「ちょ、華! そんな大きい声で……やめてよ」
集団の前の方で、一際大きな声が上がり、それを大人しそうな声がたしなめる。
一瞬人垣が割れて見えたのは、顔を真っ赤に染めて俯く黒髪の女の子だった。
濡れ羽色のツヤツヤした髪を耳の下で切りそろえるボブヘアー。
垂れた大きな瞳は、恥ずかしそうに歪んでいる。
あの子が1位の、市川夏芽さんか。
もしあの子が入学試験で首位を取っていて、壇上に上がったのが彼女だったら、私は伶音くんに一目惚れすることは無かったのかしら?
いいえ、きっとそんなことは無い。
どんな運命になったとして、きっと私は彼に惹かれていたはずだから。
「あの子が、1位か……」
1人で悶々としていると、伶音くんが呟いた。
ふと彼の目を見ると、真剣な眼差しで集団の真ん中を見ていた。
私の位置からは見えないけれど、その視線の先には市川さんが居るのだろう。
「市川、夏芽……」
ぽつり、と伶音くんが呟いたのは彼女の名前。
学年2位の彼が、首席の彼女を気にするのは何ら不思議な事じゃないはずなのに。
私は、胸の辺りが微かにざわつくのを感じた。