「柚姫の間違えた所、先輩方が点を落としがちな所と殆ど一致してるね」

資料を見ていた伶音くんが、ふと気がついたように指摘した。

「どこも、引っ掛け問題だよ」

彼が指差す箇所を目で追う。

「捻ってある問題が多いね。逆にこれ以外は、考えすぎなければ素直に解ける問題が多い……ありがとう、柚姫のお陰で、かなり時間を短縮できそうだ」

資料を独自に解釈した伶音くんは、嬉しそうに自分のノートとペンを取り出した。

彼の役に立てたようで、私も満足して吐息を漏らした。

このまま少しでも関係が進めばいいのに。

やる気に満ちた表情で問題を解く伶音くんを見ながら、気づけば私は小さく微笑んでいた。

「あ、そういえば」

ふと、伶音くんがつぶやく。

「柚姫の間違えた所、解説しようか」

「え? いいの? 自分の勉強は?」

「柚姫に教える事で俺も理解できるから」

そう言いながら、伶音くんは身を乗り出して来た。

私も逆らわずに、同じノートの上に視線を落とす。

「まずここなんだけどーーーー」

「最初に引っかかったのがーーーー」

同時に口にして、同じ箇所を指差す。

伶音くんの手と、私の手が、瞬間、触れ合う。

触れた指先が、熱を持った。

慌てて手を引っ込めると、伶音くんが不思議そうに私を見た。

「うん? どうしたの?」

それだけで、彼との思いの違いが明らかになる。

「ううん、なんでもないの……なんでも……」

モゴモゴと小さく答える。

「ならいいんだけど。あ、それでね、この文なんだけどさ」

伶音くんが再び先程の箇所を指さす。

私は、手を引っ込めたままそこを見つめた。

嫌でも彼の、男の子らしい大きな手が目に入る。

だめ、集中しないと。

伶音くんの低くて心地のいい声に耳を傾けた。

「柚姫、この場合、関係詞はーーーー」

「そうか、じゃあここで繋がってーーーー」

顔を上げた瞬間、思ったより近くにあった伶音くんと目が合った。

今にも鼻がくっつきそうな距離。

たっぷり3秒間見つめ合う。

「ご……めんなさ……」

硬直した体をゆっくりと動かし、なんとか伶音くんから距離を取る。

顔が熱い。

きっと、赤くなっているのがバレている。

息が荒い。

心臓が痛いほど、その存在を主張している。

好きだ。

こんなちょっとしたことで、嫌というほど自分の気持ちを自覚する。

伶音くんのことが、好きだーーーー