バルコニーから見える海を、ゆっくりと船が行く。

そんな船の汽笛がたまらなく切なくて胸が苦しい。

泣くな、泣くな私。

私は涙を拭くとゆっくりと立ち上がり、ホテルのドアをそっと開けた。



***



約半月前。

「ねえ翔矢、凄いんだよ聞いて!」

「んー?」

私は浴室から出てきた翔矢に、ニコニコと微笑んでこう切り出した。

自然に、自然に。

大丈夫、もう何度も練習したんだから。

翔矢は頭を拭きながら、朝から妙にテンションの高い私を呆れたように一瞥した。

「なに」

……この温度差に挫けそうになるけど、頑張れ私!

「実はね、応募者数一万人の中から選ばれたの!」

本当は三年前に自分で予約してたんだけど。

翔矢が水を飲みながら、少し眉を上げる。

「一万人の中から?」

フッ、食い付いてきたな!

私は翔矢の興味が薄れない内に目的を達成すべく、意気揚々と先を続けた。

「ホワイトキャッスルのペア宿泊券が当たったの!しかも最上階の豪華スイートだよ!」