「…千秋ちゃんが、ひろくんって言ってあなたを連れて行った。あんな千秋ちゃん、入学してから初めて見たよ。何でか、聞いてもいいの?」

「ソレを俺に聞いちゃう?ははっ、それは本人に聞いた方がいいんじゃないかなー。チィちゃん絶対喜ぶと思うよ。仲良くなれてるーって、ぴょこぴょこ跳ねてさ。君のこと、本当に気に入ってるみたいだから。」

顔を見て話している筈なのに、距離があるからか、逆光だからか、彼の表情は上手く読み取れない。

高く短く笑う声が教室に響いては、彼の声のトーンを少しずつ下げていった。

「美コンに私を選んだの、あなたでしょ。」

「俺が君を選ぶ?そんなわけ無いじゃん。選ぶならチィちゃんを選ぶよ、この学校の中で一番可愛いから。」

「千秋ちゃんが誰より可愛いのは激しく同意するわ。だけど、普通好きな子ほど他人に見せたくないんじゃないの?だから、男子からも女子からも支持を集める千秋ちゃんが選ばれるのを、私を推すことであなたは阻止した。それを見た千秋ちゃんが、何故あなたを連れて行ったのかはまでは分からないけど…何も知らない私でも、あなたと話せばこれくらい想像がつくわ。」

クックッと喉の奥で笑う彼。のっそりと立ち上がった姿は暮くんほどの身長で、近くに寄れば寄るほど大きさを際立たせた。

廊下側の窓も全部閉じられた教室。

身長に驚いて席を立つのが遅れた私は、あっという間に人生二度目の壁ドンをされてしまっていた。

「風深さんってさ、男の免疫無いのに結構鋭いんだね。俺そんなに分かりやすかったかな。」

「っ…。」

「俺が近寄るだけでここまで顔赤くして、意外と可愛いところあるんだね。」

くるくると髪の毛先をいじられ、首もとへ顔を近づけられる。逃げようと胸を押した手は頭の上に壁と彼の手で固定されてしまった。

「チィちゃんがさ、"てんちゃん"以外になつくのって初めてなんだよね。だからさ、君の魅力ってやつ?俺はソレが知りたいな。」

「私には、そんなのない。」

「チィちゃんってね、目立つこと嫌いなくせに、君を守るために千秋を推薦し直してってお願いしてきたんだよ。真剣な顔のチィちゃんも、凄く可愛かったよ。でもまあ、チィちゃんからのお願いだから、もちろん引き受けたんだけど。でもさ、着せかえ人形になる可愛いチィちゃんを、他の奴に見せなきゃいけないって、どんな地獄だろうね。」

首筋から顔をあげて、ニコッと微笑む。その笑顔は少し、忘れていた彼女のあの笑顔に似ていた。



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