「やらかした……」

ザッザッと刻み良い音をたてながら外用ほうきを動かす。
柚奈は入学初日から、出されていた宿題を忘れたのだ。

「あーあ。ついてない…。初日から目ー付けられちゃうよー!!」

朝から楽しみにしていた高校の入学式だったのに。と呟いて早く掃除を終わらせようとほうきを動かす。
桜の花びらは掃いても掃いてもなくならない。
皮肉な事に、桜並木を舞い散る桜はとても綺麗で、日本でも有数な舞桜と呼ばれているらしい。
そんな桜に目を向ける事も出来ずただほうきを動かしていた。

「あれっ。何やってんの?」

ふいに声が降ってきた。

「あ…。真琴くん」

そこには桜が似合いすぎる美少年がいた。
絵になるな…と思いながら柚奈は話しかけた。

「真琴くんは宿題出した?」

「あぁ、うん。…て、もしかしてその掃除、忘れたせい?」

ふはっと笑う真琴くんに柚奈の胸はときめいた。

「もー入学式から最高なの!!ほんと!!!まさか掃除を頼まれるなんて!!」

「それを言うなら最悪じゃない?何が最高なの。。面白すぎでしょ。」

ニヤニヤしながらそんな事を言う真琴くんは意地悪で。でもかっこいい。

「最悪っていう言葉、禁止してるんだ。なんか幸せが逃げちゃいそうで」

「へー。かっこいいね」

「……自分の事言ってんの?」

「ありがとうございます。」

―ふっ

どちらともなく笑い出した。

話していてこんなに楽しい男子いないな…。

柚奈は話しながらそう思っていた。
桜吹雪の中で立ち話をする2人の生徒は色んな意味で目立つようで。沢山の人から見られていた。でも、そんな事はお構い無しに、2人は話し続けた。

「手伝ってくれてありがとう」

真琴くんは、柚奈の掃除を手伝ってくれたのだ。

「いいよ別に。まだ帰りたくなかったし」

そう言いながら笑う真琴くんは、少しだけ悲しそうに見えた。

「……一緒に帰ろっか」

家が同じ方向らしく、そのまま帰ることになった。
桜並木の長い長い坂道を下りながら2人は話し続けた。

―後ろからの視線に気づかずに―