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夜9時近く、そろそろ社内にいる人も両手で数えられる数になってきた。

「おつかれさまでーす」

「お疲れ様です」

デザインチームの数名が連れだって出ていく後ろ姿を見送ってから、右隣のデスクに目をやった。


今日もやっぱり、拓巳は6時きっかりに退社。
バイトのために。

——なぁんで、こういう時に使えないかなあ、あのカメ助。
——大事な彼女がストーカーに狙われてるっていうのにさ。

翠の言葉を思い出して、ため息が漏れる。

もう何度も彼に好きって言われたけど、結局わたしの優先順位、やっぱりバイトより下ってこと?

やや、別に……いいんだけど。さ。
でも……ちょっとモヤモヤしてしまう自分がいる。


今頃お客さんと、どんな話をしてるんだろう。
どんな甘い言葉を、どれほど甘い笑顔で、ささやいてるんだろう。

これまでに、あの腕に抱かれた女性は、一体何人いるんだろう。
そりゃ、あんないい男だもん。きっと学生時代からモテまくりだったでしょうけど。