校長先生の話が長い。

私が講堂に入った時には既に話を始めていた彼だったが、それから20分近く経過した今になっても話が続いている。

もごもごと聞こえにくい声音で、聞こえない音量で呪文を呟き続けているだけの演説を、聞いてる生徒は誰もいなかった。

朝礼で仲良くなったのであろう隣の席の人と会話をしている人、スマホを一人で弄っている人、居眠りをしている人。

講堂の中は少しざわめき始めていた。

私は遅刻をしてしまったので、他の子達が交流していただろう朝礼を逃している。

このチャンスを逃すつもりは無い。

意を決して、隣の席に座っている女の子の方に体を向けた。

その子は、つまらなそうに校長先生を見ていた。

とはいえ焦点が合っている訳ではなく、上の空で考え事をしているのかもしれない。

私は彼女の肩をちょんちょんとつつき、声をかけた。

「あの、私、白雪ありさって言うの。」

「え?」

女の子の、凛々しくも穏やかな丸い目が私を見ていた。

小さな顔に、透き通るような白い肌。

化粧をしているわけでもないのに桃色に色づいた頬。

形のいい唇は、鮮やかな色をしている。

「私、朝礼に出てなくて、それで、ええと」

勢いのままに声をかけてしまったせいで、気の利いたことが言えない。

名前だけを一方的に告げたまま、私はしどろもどろになってしまった。

それを見た女の子が口元に手を当てて、クスリと笑った。

「え?」

「私は藤宮ゆり。声をかけてくれてありがとう。退屈していたから助かったわ。よろしくね」

私に助け舟を出すように、彼女は自分の名を告げた。

血色の良い唇が、穏やかな孤を描いている。

優しげに微笑む彼女なら、きっと大丈夫だ。

私はそう思い、再び口を開いた。

「ゆり、って呼んでもいい?」

「ええ、もちろん。私はありさって呼ぶわね」

ゆりは口元に手を当てて、また小さく微笑んだ。

彼女の仕草も笑い方も口調もすべてが上品で、私とはまるで住む世界が違うようだった。

お姫様みたい。

それが私とゆりの、初めての会話だった。