お昼。
食堂で1人昼食を取っていると、ハルキが前に腰掛けて来た。

「今日は髪飾りつけてんだ。似合ってるじゃん」

人の変化を良く見ている彼。
私は急に照れ臭くなった。

「兄から貰ったの。バルバロッサの伝統品なんだって」

バルバロッサの山間部にはうちでは取れない珍しい植物が生息している。
そのうちの一つがこれだ。

兄は良心からこれをプレゼントしてくれたが、実際の所王族の私が身につけることは隣国との親睦を深める為でもあると思う。

「そういやお茶会に参加するんだって?」

驚いた。私が知らされたのは一昨日の夜だ。
もう街の人に知られていたのか。

「良かったじゃん、前から行きたいって言ってたもんな」

うん。顔が綻ぶ。私にとってこんな嬉しいことはなかった。
普段はめったな行事や学業以外のことでは王宮を出ることが許されていないから。

「社交会デビューだな」

それを聞いて、昨晩のことを思い出す。

「最近は、夜帰ってからダンスとマナーの指導ばっかり」
社交会に参加する為に身につけなければいけないことが沢山あるから。

うわ〜。と苦虫を潰した顔をするハルキ。
そして何かを思い出したように声を上げた。

「もしかして、婚約者と顔合わせする為だったりして」

まじまじと私の顔を見つめるハルキ。

「それはまだ聞いてないけど…でも、年の近い王子がいるみたい」

「そっか」

それを聞いてハルキは寂しそうな顔をした。
私ももう、そういう歳なのだ。腹違いの姉はもっと幼い頃に東の同盟国へ嫁いで行った。あれ以来全く会っていない。

「街の方も見ていくの?」

「一応申請してるけど、通るか分からないみたい」

「王族って制限ばっかだな」

「それもなんだけど、治安がうちほど良くないんだって」

隣国バルバロッサは近年目覚ましい成長を遂げている国だ。
私達も過去に一度だけ付き合いがあったのだが、当時バルバロッサは一小国にすぎず、国力は私達の国の10分の一であった。
あの頃は、向こうがこちらへ出向いての貿易交渉だったらしいが結果は決裂したと聞いている。
しかし、この数年で随分と成長したらしい。

「でもさオレ、フィアの正装姿って想像出来ないわ」

「それどういう意味?」

すかさず返す。
確かに、王立研究所にいる間は王族らしいものは着用しないことにしている。
ここは国中で、賢く実力があれば身分の上下は関係無く研究員になれる唯一の場所だから。

「褒めてるんだって!普段は王族って感じしないし、話しやすいし」

私も彼が普通に話しかけてくれることが嬉しい。宮中じゃそんな子1人もいないから。