「フィア〜〜。会いたかったよ〜〜」

さっきまでの凛々しい皇太子姿とは裏腹に、一旦服を着替えて部屋に落ちつくと、兄の意外な顔が垣間見える。

素直な感情の表現の仕方は兄から教わった。

部屋には叔父さんと兄と私の3人のみ。
こういう時くらいしか見せない兄の一面だけど、私はそんな兄が大好きだった。

「お父さん、体調よくない?」

父の身を心配する兄。普段は気を張っているせいで、感情的というよりは国王としての合理的な人間として評価されることが多いが、本当は人一倍心配性なのだ。

「セバスチャンが、今は落ち着いてるって」

まだこの国では医療が広く発達していない為、感染してはいけないからと、あまり面会が出来ないことになっている。

「そうだ、お父さんとフィアにお土産買ってきたんだよ!」

手元の紙袋から、何か取り出して私に差し出した。

「絶対フィアに似合うと思って!」

綺麗な白い花の髪飾り。
さっそく付けてみようと思い、髪に手を回したが、なかなか上手く付けれない。
それを見て、兄がパチンと私の髪にセットしてくれた。それから頭をポンポンと撫でてくれた。

手慣れた手つき、しかも女の子の喜ぶツボを心得ている。兄はいわゆる遊び人らしい。

「わわわっ!凄く可愛いよ、フィア!」

兄が正面から私を見て、満面の笑みでそう言った。


私も恥ずかしくなりつつ、お礼を述べる。


「実はさ、5日後にバルバロッサで貴族を招いたお茶会があるんだ……」

そこでこの髪飾りをして参加してくれないか、と頼まれた。兄から政治関係の社交会などに参加を頼まれるのは初めてである。

ちょっとは信頼してくれているのかなと思うと、とても嬉しかった。