太陽がジリジリと照りつけて、暑さは尋常ではない。


でも、そんなこと忘れ去るくらいに楽しくて。




この4人でこられて本当によかった。



こんな楽しい時間が永遠に続けばいいのにな。




「でも、本当にその水着、似合ってるよ。華のイメージにピッタリ!」




と、再び褒めてくれる春くん。




「あ、ありがと.....」



や、やっぱり改めて言われると恥ずかしいよ。




「ちゃんと、華に伝えたくて。」



と、まっすぐ私を見つめる春くん。




普段見慣れない格好の春くんにそんな見つめられると、変にドキドキしちゃうよ。




「ふっ。照れてる?」



「恥ずかしい....」



「照れてる華、すげー可愛い。」





周りにはたくさんの人達で賑わっているはずで。




はしゃぎ声とか。笑い声とか。
たくさん飛び交っているはずなのに。




私と春くん、2人だけの世界に入ってしまったかのよう。




そんな甘い目で見つめないで.....



ドキドキしすぎて、どうにかなってしまいそう。










「変な男に声掛けられたりしないように、俺から離れるんじゃねーぞ。」



なんて言いながら頭に手を置かれ、



「は、はい。」



と、素直に返事をする。



「ん。いい子。」




春くんのペースに乗せられてばかりだ。




「「....」」




自然とふたりが無言になった。



今にも触れそうな肌。




少しでも春くんの方に体を傾ければ、すぐにでも肌と肌が触れ合う位の距離感。




ドキ、ドキ、ドキ。



なにか言葉にしたいのに、何も出てこない。




お互い、海水浴客で賑わう海辺を見つめる。




春くんは今、何を考えているんだろう。



そんなことを考える。



でも、こんな無言の時間も嫌ではなかった。



お互い言葉を交わさなくても、心地の良い雰囲気。




「華。」



少しの沈黙を、春くんが破る。



「ん?」



「もっといっぱい、思い出作ろうな。」




春くんの方を向けば、ニコッと温かい笑顔を浮かべていて。




「うんっ!」



そんな春くんの笑顔に、私も自然と笑顔になっていた。









「ちょっとそこふたり!なに抜け駆けしてるの!」



「そーだ!そーだ!イチャイチャしてるなよ!」



少しすると、海から桃菜たちふたりが上がってきた。



戻ってくるなりからかわれる。



「ちょっと休憩してただけだろ!イチャイチャしてたのはそっちだろ!

熱すぎて見てられなくて、2人で戻ってきたんだよな?」




なんて、からかい返す春くんに「うん!」と私も頷いてみる。




「あー!華までそんなこと言って!」



と、桃菜。



本当、2人は仲がいいね。


遠くから見てるだけでも微笑ましく思えるくらい。




「私の華が可愛いからって、誘惑禁止っ!」


なんて、桃菜の言葉に「誘惑されてるのは俺のほうな?」とか春くんがいうから、恥ずかしくなる。




今日は私、恥ずかしがってばかりだな。



「ゆ、誘惑なんてしてないもん!」



そう、反論してみれば。



「そんな可愛い格好してそんなこと言われても、説得力ありません!」



と、言われてしまった。




橘くんが春くんに向かって「今日はやけに積極的ですね〜。」なんて、ニヤニヤしていたけれど私にはさっぱりなんの話をしているのかわからなくて。










「ど、どうしよう!やっぱり無理だよぉ。」




「大丈夫!似合ってるし、めちゃくちゃ可愛いよ!自信もってこ!」



「で、でもぉ....」



「ここまで来て引き返せないの!ほーら!!」



夏休みに入って数日経ったある猛暑の日。



私、桃菜、春くん、橘くん4人は約束通り海にやっきた。




そして、私はこの日のために桃菜と水着を買いに行き、一緒に買った水着を身につけたところ。




白色のフレアスカートが可愛いワンピースの水着。




水着自体はとっても可愛いし、デザインもかなり気に入っている。



だけど、こんな格好して外に出て、春くんたちに姿を見せるなんて恥ずかしすぎるよ.....




「お、押さないでよー。」



無理矢理、桃菜に背中を押されながら更衣室を後にした。




前もって場所取りをしていたところにはもう既に水着に着替えた2人の姿。




徐々に近づいていくにつれて、心臓の音も速くなっていく。




「おまたせ!」



どん、と私を前に押し、自分も隣にやってきた桃菜。









わー.....いま私、水着姿で春くんたちの前に立ってるんだ。



ど、どうしよう....変じゃないかな??



恥ずかしすぎて、顔を上げられない。



「どう?似合うー?」



なんて、自分の水着姿を見せる桃菜。



さ、さすがだ。



桃菜はカーキのオフショルとスカートの水着。



2人で見に行ったとき、桃菜にはこれ!と一瞬で思ったやつ。




実際、桃菜が着た姿を見たら本当に似合っていた。




「ふたりとも、破壊力やばすぎだって。」




と、静かに橘くんが言った。



は、破壊力!?



そんなに似合ってなかったかな....



でも、桃菜はスタイルも抜群だし水着もかなり似合ってると思うんだけどなぁ。




「華。」



「うん?」



「健永の言う破壊力がやばいって言うのは、2人の水着姿が可愛すぎるって言ってるんだよ?」



「へ??」



私、何も言ってないのに。



心を読んだかのように春くんが言った。




「似合ってないのかな?って不安そうな表情になってたから。」


と、補足で付け加えた。








「で、でもそこまでじゃないよ....」



そんな可愛いなんて、橘くんもお世辞を言うのが上手いなぁ。




「いや、正直なところまじで可愛すぎる。」



なんて、私の目を真っ直ぐ見ながら言うものだから。



思わず目が泳いでしまった。



ただでさえ、照りつける太陽で暑いっていうのに。



そんなセリフを言われてしまったら、余計に体が熱くなって全身から火が出そうなくらいだよ。





「このビーチにいる男たちに見せるにはもったいないくらい。」



そんな春くんの言葉にブンブンと首を横に振る。




いやいや。桃菜のことを言うならまだしも。



私なんてそんなだよ!!





「またそうやって。少しは自覚しなさい。」




ぺし、と軽くおでこにデコピンをされる。




ハッとして、おでこに手を当てながら視線をあげると、パチリと春くんと目線がぶつかった。





水着姿の春くん。



照りつける太陽の光で、いつにも増してキラキラと輝いているような気がして。









私のことを真っ直ぐ見つめる春くんの瞳から、しばらく目を逸らすことができなかった。




「ふっ、見つめすぎ。」



そんな、春くんのセリフにボボボ、と再び顔が熱くなる。




あぁ、もう。初っ端から恥ずかしすぎるよ....



恥ずかしさのあまり、また顔があげられないっ!




そんな私の頭に手を置いた春くんは、




「ほーら!そんな下ばっか向いてないで、海行こ!」



と、明るく声をかけてくれた。




「そうだよ!!砂浜にずっと立ってても暑いだけだしさ!行こうよ!」




レジャーシートに持ってきた荷物を置き、私たちは海へと走り出した。





久しぶりに来た海はとても楽しくて。




4人でずっと笑って、はしゃいで。




みんな子供に戻ったかのように遊んだ。




「ほら!まだ大丈夫!」




「え、ちょ、ちょっと待ってよ。春くん。」




私の片手を引きながら、どんどん海の奥へ歩いていく春くん。




もちろん、春くんの方が何十センチも身長が高いから、奥に歩いていってもまだまだ余裕がある。











だけど、私はもうつま先で歩いていて。



これ以上深い所まで行ってしまったら、口が海に着いてしまいそうなくらい。




「俺が支えるから、大丈夫だよ!」



と、私と向き合う形になった春くんは、私の両手を取った。





な、なんかこの状況.....ちょっと恥ずかしい。




春くんと両手を繋いでしまってる。



嫌、とかではない。全くない。




けど、流れに任せてかなり距離が近い。




「こ、これ以上はダメだよ!」




「あー、華のビビリ!」




「えっ!?べ、別にビビってないもん!」




「本当かー?じゃあ、もっと奥まで大丈夫だな!」




なんて、意地悪を言う春くん。




ちゃんと私の手を離さないように、しっかり握りながら、ゆっくりと奥に進んでいく。




「こ、こんな深いところまで来てどうするのー?」




「んー?どうもしないけど、華のことイジワルするのがちょっと楽しくて(笑)」




「なっ!?」




ちょっと?笑いごとじゃないよ〜!!




イジワルするのが楽しいなんて!




「あ!ほっぺ膨らまして、怒ってる!」




「そりゃあ、怒るよ!」



そんな私の顔を見ても、ケラケラと楽しそうに笑っている春くん。










.....こんなにも、春くんが楽しそうに笑っているなら。




イジワルされるのも、悪くないかな。....なんて。




むしろ、春くんにからかわれること。少しだけ、嬉しかったり....して.....




そんなことを1人で考えて、恥ずかしくなる。




そして。




───クイッ




「きゃっ!?ちょ....ちょっと....春くん!?」




離さないように掴んでいた私の腕を引っ張った春くん。





そのまま私は、春くんに抱っこされるような格好に。




「ここまできたら、2人でゆっくり話せるかな?なんて思ったりして。」




と、穏やかな顔で言う。




ドキ、ドキ.....




水中で触れ合っている肌と、春くんのそんなセリフに胸が高鳴らないわけがなくて。





そんなことを、こんな至近距離で言われたら誰だってドキドキしてしまう。





春くんに抱っこされているせいで、私がドキドキしていることがバレちゃう.....




そう思って、離れようとするけど。




「こーら。こんなところで離れたら溺れちゃうよ?」



と、言われ大人しくすることしか出来ない。