試験も無事終了し、迎えた卒業式。
桜の花がひらひらと舞う中、式は滞りなく進み。教室での卒アル寄せ書きも書き終わって、「それじゃあまた遊ぼうね、絶対だよ」なんて曖昧な約束を友達と交わしてから3人で家に帰ろうとしたけれど、啓太がいない。

「あれ、涼ー、啓太は??」

「お、あいつなら後輩の女の子に呼び出されてどっかいっちゃったわ。ひょっとして告白じゃね?」

「うわー、なんか卒業式って感じ! きゅんきゅんするわー」

2人で啓太を探しつつ校舎を歩いていると、少しだけ間を空けて涼が呟いた。

「……灯はさ、なんか、ないの? そういうの」

「そういうのって?」

「いや、ほら、誰々くんがスキー! 付き合ってー! みたいなの」

「うーん、そうだなあ、正直考えた事ない。でもいいよね、何だかキラキラして。青春って感じ。高校入ったらそういう事もあるのかなあ」

「あるよ、きっと」

急に真面目な感じで喋る涼はいつもの涼と違う気がして。ふと横を向くと、全くふざけずに私をしっかりと見据えてくる。

「ど、どうしたの……?」

「灯、俺、ずっと灯と過ごして来て、すごい、お前の事が好きだ。今は気になる人がいないのかもしれないけれど、俺と付き合ってほしい。絶対幸せにしてみせるから」

まだ生徒が普通に歩いている廊下での、突然の告白。しかも学校の中でも有名なあの人気者の涼が卒業式に告白という事で、あっという間に回りがざわつきはじめる。

まだ頭が真っ白な私の耳に、ふと女の子の声が飛び込んできた。

「涼先輩、ようやく言ったんだー! もう付き合ってるもんだと思ってたけど、卒業式でちゃんとけじめつけるなんて、やっぱカッコイイな〜」

――もう付き合ってるもんだ……?

そうして周りを見渡すと。涼に「よくやった!」とハイタッチしている同級生もいれば、「ヒューヒュー」なんてヤジを飛ばしてくる梅ちゃんまでいる。

「灯、付き合ってくれるよな?」

あまりにも突然の出来事に、頭が回らない。私と、涼が、付き合う……? 
周りからは、もう付き合っているものだと思われている……? 
放心状態で涼を見つめていると、周りは“もう相思相愛のカップルが視線を絡ませている”と勘違いしたみたいで。

「おめでとー!」
「卒業してもお幸せにね!」
「涼、まじ良かったな!」
なんて一気に色めき立った。


どうやら、たった今、一言も発さないまま私に彼氏ができたらしい。


「あ、啓太だ! 啓太—! 帰るぞー!」

その時、ちょうど前から啓太と、その後ろを俯きつつついてあるく女の子が見えて。何だか自分でもついていけないこの展開が一旦落ち着くと思い、安堵する。

「啓太—! 成功——‼」と涼が元気一杯なVサインを啓太に送ると、啓太も少しだけ後ろの女の子を気にしつつ、小さくVサインを返してきた。「よかったね」と口をぱくぱくさせている。

私はというと、いまいち今の状況が理解出来ないながらも、啓太と一緒にあるく女の子が少しだけ涙ぐんでいる様子を見て、「あ、あの子、啓太に断られたんだ」と思うと、少しだけホッとして、ますます自分の感情がわからなくなってしまった。

その翌日に迎えた合格発表。

啓太はもちろんのこと、私はなんとか志望校である北高に合格。

もうだめだと思っていた涼も奇跡的に合格し、晴れて私たちは、一緒の高校に通う事になった。