「ちょっと、マジで涼ちゃんとして。入試まであと5ヶ月しかないんだよ、5ヶ月! わかってんの!? 梅ちゃんとの面談でも『お前は北高受けるのはまじで大変だぞ』って言われてたじゃん! こうして啓太が勉強教えてくれてんだからちゃんと聞けバカ!」

「啓太聞いた!? 今の暴言!! 灯ってば酷くない!? 俺はただ、ちょーっと疲れたからちょーっとだけ携帯みて、ちょーっとだけゲームしただけなのに。ってか、ゲームもしてない。正確にはログインしただけ。ログインボーナス貰っただけ」

啓太が転校生としてやってきてから、早7ヶ月。
初めて出会ったあの日、早速涼が持ち前のフランクさで話しかけていつの間にか仲良くなって、実は私たちと一緒のマンションに引っ越して来た事が発覚し、その流れで私も自然と仲良くなった。
今は、いよいよ間近に迫って来た受験に向けて、こうして頭の良い啓太から学校の図書室で勉強を教えてもらっているんだけれど。

「涼さ、マジでそんなんだったら落ちるって!  私ですら北高は結構ギリギリラインなのに! みんなで一緒の高校行きたいんなら、もうそのゲーム消した方がいいよ。ほら、携帯かして。自分じゃ未練があって出来ないだろうから、私が消してあげる」

そうして涼の携帯を取り上げようとすると、「きゃー、灯のえっち。人の携帯見るなんて痴女だ痴女!」と叫びながら携帯を握りしめて逃げて行ってしまった。

「まあまあ、灯ちゃん、ここ、図書室だし、落ち着いて、ね? きっと涼も頑張ってるんだと思うよ。息抜きも大切だしね」と、自分が一番迷惑を被っているだろうに、涼のフォローまでしてくれる啓太。
ふと周りを見回すと、非常に冷たい視線の数々。

「すみませーん……」

小さい声で周囲に謝りつつ、少しだけ縮こまる。

「でも、啓太は本当に優しいよね。あんなヤツのフォローしても何にもならないよ? せっかくこうして自分の時間を割いてこうして教えてくれてるのに、涼のやつ……」

「あはは、灯ちゃんは本当に涼のお母さんみたいだ。でも全く問題ないよ。こうして人に教えるって事は、自分がちゃんと理解出来ているかどうかの確認にもなるし、なにより俺も涼と灯ちゃんと一緒の高校に通いたいんだ。こうして仲良くしてもらえる事が、本当に嬉しいから」

「本当に涼は出来た人間だ~! だって私知ってるよ? 先生との面談で、もっと上の高校目指さないか、って言われたんでしょ?」

「さすが灯ちゃん、情報通。でもいいんだ。俺は北高に行く。さ、おしゃべりはそろそろやめて、勉強しよっか」

詳しくは聞いていないけれど、どうやら啓太は、前の学校であまり友達がいなかったらしい。ちょっと気が弱い所がその理由かな、と思うけれど、うちの学校のでは啓太という煩いやつがいるから、逆に物静かな涼のようなキャラクターが新鮮で、女子の間では“王子様”として密かに人気だったりする。

細身で背が高く、色素の薄い髪の毛と瞳も影響しているんだとか。
これは石川ちゃんから聞いた話。

そうして2人で勉強をする事1時間ほど。
ようやく帰ってきた涼は汗だくで。
「何してたの」と聞いても「ちょっとな」なんてお茶を濁してはいたけれど、涼が帰ってくる直前に図書室前の廊下から「じゃーなー!」「涼先輩、あざーっした! また遊びに来てください!」なんてやりとりが聞こえて来てたから、おそらく古巣のサッカー部に顔でも出して、一緒に練習をしてたのだろう。

本当に、受かる気があるのかないのか。
そっとため息をつくと、啓太が耳元でこそっと「涼なりの息抜きの仕方なんだよ。灯ちゃんも目を瞑ってやって、ね?」なんて優しさ100%の笑顔で囁いてくるもんだから、もう受け入れるしかなかった。