ミラー越しにメイクしている瑞穂ちゃんと、こんな風に普通に話していることが少し不思議な気分。
まるで、二人の間には何もなかったみたい。
十五歳の頃に起こった亀裂は夢だったのかもしれない、なんて思えてしまいそうなほど。


私の視線を背中に浴びていた瑞穂ちゃんが、ふいにチークブラシを止め私に訊ねた。


「どうして今頃、会いに来たの? 中学を卒業してから、全く音沙汰無かったのに」

「……うん」


今、話すべきなのだろうか。
せっかく仲の良かった頃の二人の空気感を壊してしまってもいいのかな。

もしかしたら、瑞穂ちゃんは中学時代に私を無視した事など、忘れてしまっているのかもしれない。
瑞穂ちゃんの記憶の中で、私は「仲良しの香澄」のままなのかも。
だから、瑞穂ちゃんは何事も無かったかのように普通に会話しているのかもしれない。


そんな思いが過り、何故ここにやって来たのか答えられなくなる。
蒸し返さない方が良いのかもしれない。
瑞穂ちゃんの記憶が塗り替えられているのなら、私が無視された事など黙っていた方が仲の良かった私達のままでいられるのかも。

今更、無視した理由を聞いたからと言って十五歳の中学生に戻れるわけじゃないし。
それならば、仲良しだった頃のように接してくる瑞穂ちゃんと、この先も普通に付き合う事が出来るかも?


「よし、準備完了! 行こっか」