ペコリと一礼した私は、ご婦人から「お友達に会いに来たの?」と訊ねられた。
どうやら、手にしていた地図の片隅に「瑞穂ちゃんの家」とメモした文字と、手に持っていた地元のお土産袋を目にしての言葉だったようだ。


「はい、十年ぶりなんですけど……」


もしかしたら私のことを記憶から消し去っているかもしれないし。
顔を見ても思い出してくれる保証なんてないんですけどね、と苦笑いする。


「そんなことは無いわ、きっとお友達も再会できたことを喜ぶはずよ。だって、学生時代の友達っていうのは昔の自分に戻ることが出来る、最高の特効薬だもの」

「特効薬……ですか?」

「そう。仕事で嫌な事があった時や躓いた時、迷った時だって。あぁ、あの頃は良かったなぁ楽しかったなぁ……って思い出すのは学生時代が多くない? そんな時間を共に過ごした友達とは、何年経っていても再会すれば不思議と昔の自分達に戻れちゃうものよ」


ご婦人の言葉が痛い。
再会したら昔の自分達に戻る、ということは。
瑞穂ちゃんに避けられた時の悲しさを思い出すという意味でもあるのだから。


教えられた道を歩く足取りが、さっきよりも少し重い気がする。
ここまで来たのに、今更ながら瑞穂ちゃんに会うことが怖くなり躊躇う気持ちが芽生えてしまった。