届いていた?


 届かないはずの光が、こんな形で届いていた?


 ……そうだったんだ。


 月の本当の姿を、あたし達はちゃんと見ていた。


 月は答えてくれていたんだ。


 決して目立たず、慎ましく。


 でも懸命に、一心に、そうして光を届け続けてくれていたんだ!


「……ウ……ガ……」


「しま子?」


 熱心に月を見上げているしま子の右手が、ゆっくりと動き始めた。


 そしてその手は、請うように空へ真っ直ぐ伸びる。


 月へ。


 まるで願いをかけるように、届かぬ月へと。


「これは……?」


「おお、しま子よ……」


 門川君と絹糸が、そんなしま子を戸惑いと驚きの混じった目で見ている。


 あたしは涙ぐみながら、言葉もなくしま子を見つめていた。


 たぶん、これは無意識の行動だ。


 明確な意思や深い意味があってやっているわけじゃなくて、しま子は単純に月が珍しくて手を伸ばしているだけだろう。


 でもあたしには、しま子の声が聞こえた気がした。


 夜であっても昼であっても月が月であるように、自分は自分なのだと。


 自分は、しま子だと。


 その真実を全身全霊で、あたし達に届けようとしてくれている気がする。


 ……受け取らなければならない。


 この両手を広げて、しま子の声を受け取らなければならない。


 本来ならば決して誰にも届かぬだろうその声を、その願いを、あたしが青い光となって受け止めてみせる。