あなたの中に、あたしはいない。


 それでも、あなたはしま子だよね?


 あたしの大好きな大好きな、大好きなしま子なんだよね?




 不意に頭上で鳥の鳴き声が響いた。


 あたしも、門川君も、絹糸も、しま子も、揃って空を見上げる。


 癒しの雨が上がり、つかの間の虹が消え失せた青空には……


「月だ」


 真昼の月。


 白く煙る半円が、空の青さに透ける姿を見せていた。


 この月は本物の月じゃない。現世の月の姿を、忠実に空に投影させた模造品だ。


 それでも、偽物だって分かっていても月は月。


 なんだか今でも現世とこちら側の世界が繋がってるような錯覚を覚えて、懐かしさと切なさが込み上げる。


 あたしも門川君も絹糸も、今にも淡く消え入りそうな月に言葉もなく見入っていた。


 なぜかしま子も、黙って静かに月を見上げている。


「昼に見る月は、どうして白いの?」


 ふと、そんな疑問が頭をよぎった。


 夜の月はあんなに誇らし気に、誰もが見惚れてしまうほど美しい金色なのに。


 真昼の月はこんなにもひっそりと慎ましやかで、つい見逃してしまいそう。


「本来なら月は、白く見える物体なんだ」


 あたしの疑問に門川君が答えてくれた。


「夜の月が金色に輝いて見えるのは、月の光に含まれている青系統の色が、地上まで届かないからだ」


「届かない?」


「そうだ。地上に届く前に、青色の光は大気層で散ってしまうんだよ。散らずに残った赤や緑の色が混じって、月は黄色に見えている」


 散ってしまう色。


 届かない光。


 ふと、水底の水晶群を思い出した。


 どこへも届くことのない、あの儚い輝き。


 そしてそれと同じように、月からの光も、やっぱりここまで届くことはないんだね……。


「でもそれなら、昼の月だって黄色く見えてるはずじゃない?」


「昼と夜の違いはなんだと思う?」


「……?」


「太陽だよ」


 空を見たまま、門川君が教えてくれた。


「太陽の光が空を青色に染めているだろう? その青色が、月からの足りない光を補ってくれているんだ」


「…………」


「だからあの儚い白い光が、僕たちのいる場所にこうして届いているんだよ」


 その言葉に、あたしは思わず目を見開いた。