門川君の手から再び花を受け取って、あたしはしま子と向き合う。


 そして、術陣の中にそっと花を置いた。


「しま子」


「クギャアァァ――――!」


「しま子、大好きだよ」


 大好き。大好き。


 この気持ちを諦めるなんて、絶対にできない。


 何度振り払われようとも。何度踏みつけられようとも。


 届かぬ月に手を伸ばすように、あたしは、あなたに向かって花を捧げ続ける。


「あたしは、しま子のことが大好きだよ」


 通じない言葉と届かない気持ちを捧げるあたしの姿を、しま子の巨体が見下ろしている。


「ギャアァ! ギャア――! ガ―……?」


 叫び続けるしま子の目に、小さな戸惑いが見え始めた。


 得体の知れない存在を警戒するように、用心深くあたし達の様子を探っている。


 そうしているうちに、しま子は床に置かれた花に興味を持った。


 ソロソロと身をかがめて花に顔を近づけ、気味悪そうにクンクンと香りを嗅いでいる。


「……?」


 しま子が不思議そうに首を傾げる様子に、あたしは勢い込んだ。


「しま子!? まさか何か思い出したの!?」


「クギャアァァ――――!」


 思わず身を乗り出したら、しま子はバッと後ろに飛び退いて、また叫びだしてしまった。


 門川君があたしの肩をそっと引き寄せて宥める。


「天内君、焦るな」


「そうじゃ小娘。しま子の中に、お前の記憶は一片もないことを忘れてはならぬ」


「……うん。分かってる」