「ありがとう。門川君」


 あたしは彼の手から花を受け取った。


 そして、しま子へ向かって歩き出す。


「グウゥゥ……」


 呪縛陣の中のしま子は魔獣のような唸り声を上げながら、強烈な殺意の視線を送ってくる。


 あたしは術陣のギリギリまで近寄り、立ち止まった。


「しま子」


 呼ぶ声が震える。


「しま子。しま子」


 呼ぶたびに心が昂ぶり、ギューッと苦しくなって、たまらず涙が溢れてくる。


 胸の中も、体の芯も、目の奥も鼻の頭も、全部が燃えるように熱くてたまらない。


 グッチャグチャの泣き顔をさらして、あたしはしま子へ花を差し出した。


 目の前のこの赤鬼は、たしかにしま子。


 あたしの可愛いしま子。


 だから、ほら、どうか受け取って。


 あたしの思いを、門川君の心を。


「大好きだよ。しま……」

「グギャオォォ――――ッ!!」


 怒声を張り上げながら、しま子が鬼の爪を素早く振りかざした。


 とっさに身を躱したあたしは、ドスンと床に尻もちをついてしまう。


 あたしの手から離れた花が、術陣の中にふわりと舞い落ちた。


「ギャオォウ! ギャアァァ――!」


 猛り狂ったしま子が、床を踏み抜かんばかりの勢いで花を踏み潰している。


 ドスドスという乱暴な音と共に、花は無残に散ってしまった。